Hina

プロデューサーズのHinaのレビュー・感想・評価

プロデューサーズ(1968年製作の映画)
4.2
“小切手を忘れないでねー”と老婆に平気で言い放つビアリストックの開口一発目の台詞で「あ、この人狂ってるな。」と分かるまでたった20秒ʬʬʬ

メル・ブルックス監督の初監督映画らしい𖤣𖥧

過去に栄光を極めた劇作家ビアリストックが落ち目の末に演劇を利用したスキームに失敗するお話:D

多くの人々が巻き込まれるけれども、誰も不幸にならず、監獄送りになった本人も、結局はどこにいても楽しく生きられた。的なハッピーエンドでなんだか優しくなれちゃう映画♡

主演のゼロ・モステルさん演じるビアリストックはどこまでも利己的で、だらしない体型のおじさんなのに、ちくしょーほっとけない。って感じ笑
キング・オブ・コメディと通ずるような、「狂気は最高の娯楽である」というようなメッセージは、なんともNY生まれの監督らしい感覚だなぁと思わせられた。

監督のNY的感性に満ちたシーンで印象的だったのは、冒頭の、青いドレスの老婆とビアリストックが過ごすシーン。
老婆が勝手に設定する役柄を互いに演じるという、性的なプレイが始まる。
老婆を騙して小切手を取るという役を既に演じているのに、その上に老婆が別の演技をし始めるもんだから、仮面の上に予期せぬ仮面を被せられて、三重の人格を持たされるビアリストック。
騙されているはずの老婆が主導権を握り、騙すものを意識せずに手懐けてしまうという関係性は、まさにNY。次の瞬間には誰が主役になっているのか分からない。
そしてそれは、他の街では夢を卒業して久しいはずの、老婆かもしれないのだ。それがNYなのだよ。って言われた気がした🤭

また「絶対にわざとここだけ特別にしたな。」って思えるシーンがある。
この映画は全編が人物に寄った映像で構成されているのだけれど、唯一、人物からかなり引きで撮られているのが、噴水のシーン。
そのシーンは、ラストのクレジット終わりにも、もう一度使用される。
あのシーンは監督にとって何か特別なものだったに違いないけれど、それは何故なのかなぁ??と考えて見返すと、監督のメッセージが濃く滲んできた。

あのシーンは、会計士のブルームがビアリストックの悪巧みに乗っかることを決意するシーンであって、あのシーンの主役はブルームだと言える。
彼は気弱で、パニック障害を持ち、会計士という手堅い職業に就いている。彼だけが、この映画の人物の中で、NYらしからぬ人格と言える。
それはつまり、世間の大多数を埋めている「普通の人」ということだと思う。
そしてこのシーンは、その普通の人に焦点をあて、人物が極端に小さく映り、さも弱者であることを強調しているように撮影されている。
このシーンでブルームは、それまで迷っていた、ビアリストックの凡人には到底踏み込めないような狂気の道に、乗っかることを決意する。
そして「I’ll do it!!」と彼が叫ぶと、カメラは一気に近くに寄って彼を下から見上げて撮る。

あのシーンには、「誰もが花開くことができる。」というメッセージがこもっている。
狂気の変人を演出して、遠い世界のお話のように感じていたこの映画が、実は、誰もが夢を持っていいと伝えるための民衆の映画だった。
と受け取れて、さっきまで美しい月を見上げていたのに、君もおいでと言われた次の瞬間に、私も月に立っていた。みたいな感覚にしてくれる。

そして、そのシーンでTHE ENDとなるこの映画は、愛のある映画だと思った:D
Hina

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