Azuという名のブシェミ夫人

モラン神父のAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

モラン神父(1961年製作の映画)
4.3
第二次大戦中のフランス、イタリア軍の占領下にある小さな町に幼い娘と住む未亡人バルニー。
宗教に懐疑心をもち無神論者である彼女はある日気まぐれに教会を訪れ、告解室で若き神父レオン・モランに議論を投げかける。
モラン神父は挑発的なバルニーに対し真摯に受け答え、本を貸しましょうと約束する。
そうして神父の元を訪れては、二人は神の教えについて対話を重ねていく。

ジャン=ピエール・メルヴィル監督作品は『リスボン特急』しか観たことが無いのだけれど、今作もツボ。
こんな言い方はなんだか不謹慎というか、相応しくないような気もしてしまうのだけれど、面白かった。
題材が題材だけに、しかつめらしく取っ付き難そうなイメージを持って観始めたせいもあって嬉しい誤算。
例えば私がカトリックであったらまた違ったのだろうけれど、バルニーと同じ無宗教であるが故にまるで私もモラン神父と議論を交わしている様な気分になっていて、やり取りを聞いているのが楽しかったのです。
神父とは言っても若く柔軟なモランは、バルニーに対する言葉の切り返しもどこかユーモラスで、敬虔さの中に少し遊びがある。
そんな軽快さと真摯さを併せ持った彼にバルニーが次第に惹かれてしまうのは無理も無い話。
背徳感が気持ちを高ぶらせる。
彼女が思い悩み現を抜かしてしまう描写はまるで喜劇のようで、シリアスさと笑いというのは割と紙一重だなと改めて感じた。
クスっと笑わされ油断していると、印象的に使われる刃物や神父の言葉にハッと緊張させられたり。

何と言ってもモラン神父を演じるジャン=ポール・ベルモンド!!!
何でしょう、この色気。
彼が魅力的過ぎて、私なら初っ端から不純な気持ちが芽生えて即懺悔しなきゃいけない羽目になるとこだ。
あんな目でじっと見つめるなんて罪深い!!
ベルモンドって特別顔が整ってるという訳でもないのですけれど、格好良さがジワジワ効いて結局ノックアウトされちゃう・・・。
体の距離としては近くに居るけれど、確固たる信念のもと違う次元にいるのであろうモラン神父。
これまでに観たベルモンド作品の中でもかなり好きな役柄!

エマニュエル・リヴァの情熱的な部分とそれを心の内に抑え込むような演技も素敵で、涙する姿はとても美しかった。
妙に感情移入してしまったので、彼女を見ていると胸が締めつけられるような思いでいっぱいになった。
ただ時折登場する娘のおしゃまな様子が愛らしくて、少しほっこり出来たな。

モラン神父はバルニーを“救済”しようとしていたのでしょうけれど、それ自体があの切なさを生み出す要因となったのであれば、一体救いをどこに見出せば良いと言うのか。
未熟な私は“人間の頭脳”で考えてしまうからでしょうか・・・まだまだ答えに到達出来そうにありません。