垂直落下式サミング

てぃだかんかん〜海とサンゴと小さな奇跡〜の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.7
ナイナイ世代の岡村ファンなので観た。邦画でこういう題材をやると、汚い事を過度に漂白した映画になってしまいそうで心配だ。
最初に、主人公たちの子供時代が写されるのだけど、コイツらぜんぜん沖縄っぽくない標準語だし、私が鳥肌がたつほど嫌いなザ・子役な感じの演技なので、これ大丈夫か?と思ったが最後には懸念は消えて、いい映画を観終えた気がした。
本作は、夢追い人となってしまった男の人生の辛さや、主人公の熱意に当てられ、最初は冷ややかだった周囲が変化していく様子など、そこんところがキチンと描写されている。
いちばん近いのは『フィールド・オブ・ドリームス』だが、本作は『日本昔ばなし』のなかにあるような、「村のなかでバカにされている何にもできない与太郎が、唯一好きなことを頑張っていたら周囲が認めてくれる」という古典的な物語の枠組みを現代劇のストーリーに置き換えたような安心感に包まれていたと思う。
まず、とにかく水中撮影がきれいだ。青い空から射し込む光が、白い海の底を照らし出すグラデーションが美しい。しかし、近付いてみると、その白色は珊瑚の死骸。一度、観客に綺麗だと感じさせておいて急に裏返されると、主人公がある計画を思い立つにいたる切実な思いが際立つ。
物語で目を引くのは、目的さえ果たせるのなら誰に怒鳴られようが利用されようが構わないという姿勢で、向こう見ずな計画の段階で保護活動の実行に踏み切ってしまう主人公の甘さ。この男はなにも成長しない。子供に「夢だかなんだか知らねえけど、親が貧乏なのが嬉しいわけねえだろ」と面と向かって言われ、ストレスに押し潰されているところをついに奥さんに怒られるまで、独りよがりなままだ。
みんなのために綺麗な珊瑚礁の海を保護し残していきたいと言っていた男が、実は自分のことだけしか考えていなくて周囲が見えていなかったという展開は、この後、突如病気で仕事を長期間休養してしまうストイックすぎた岡村の実像と重なる苦い皮肉。松雪泰子の腰の入ったビンタで小男が横っ面を張り倒される様子が痛い。
朴訥すぎる岡村の話し方をまねしたい。普通の映画だったら、たぶんあの演技じゃあダメなんだろうが、ワキに配された人たちが芸達者なので、あの足りない子みたいな抑揚のない訛りに山下清やフォレストガンプ的な親しみやすさを感じた。
そういえば、当時のめちゃイケで濱口にこの役のことバカにされてたな。彼女もいないのにねーって。
その数ヵ月後…。鬱やだ、パッカーンこわい。