ペイン

プリンス・オブ・シティのペインのレビュー・感想・評価

プリンス・オブ・シティ(1981年製作の映画)
4.7
S・クレイグ・ザラー御大のオールタイムベスト映画の1つ。

名匠シドニー・ルメットが『セルピコ』の8年後に撮った、同じく警察汚職モノの金字塔であり、『セルピコ』の姉妹編的1作。

なかなか配信等もされておらず、観る手段のない作品だが、この度TSUTAYA復刻シネマライブラリーに入荷していたので即レンタルして鑑賞。

『セルピコ』が汚職や腐敗に立ち向かう警察官を描いていたのに対し、本作は汚職に染まってしまった警官側の苦悩と葛藤を描き出す。『セルピコ』のようにアル・パチーノという圧倒的スター、花形がおらず、スローテンポで尺も長く、アクションシーンや暴力描写も極めて少ない心理戦メインの本作はたしかに埋もれてしまうのもわからなくもないが、正真正銘“復刻”されるべき傑作だ。

主人公の潜入捜査官とその家族、賄賂で腐敗したニューヨーク市警の麻薬捜査官、警察の内部調査機構の凄まじくリアルな攻防戦が繰り広げられるハードな本作は、とても気軽に頻繁に見返せる類いの作品ではないが、『セルピコ』とセットで己の心にしっかり留めておきたい。

主人公は自責の念や迷いから、内部調査機構に“協力”してしまったのを機に、これでもかと底に転がり落ちていく。家族共々マフィアに命を狙われ、森の奥深くの民家に引っ越しさせられ、護衛が20人近くみっちり監視するなかでの生活を強いられる。

汚職に手を染めてしまう警官も根は真面目で仕事熱心だったりするし、むしろ彼らを追い詰める側の方が怠慢で仕事に不誠実だったりする。何が本当に正しい行いなのかわからなくなるし、“正義”というものが如何に不確かで危うい概念なのかが身に染みて画面から伝わってくる。

決してエンタメ性に富んだ“楽しい”映画ではないが、この鑑賞後の無常感を共有できる人に私は絶大な信頼を寄せる。
ペイン

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