syuhei

プリンス・オブ・シティのsyuheiのレビュー・感想・評価

プリンス・オブ・シティ(1981年製作の映画)
4.5
1981年のシドニー・ルメット監督作品。

NYPDの麻薬特別捜査班(SIU)は犯人逮捕を建前に売人のヤクや金を横取りするなどやりたい放題、"街の王子"の異名で知られた。チーム最年少の刑事ダニ―はそんな日々に倦み警察汚職の捜査に協力する。決して仲間を売らないと誓いを立てるダニ―だったが容赦ない検察の追求に善悪の境がぼやけ始める。

『セルピコ』で組織的な警察汚職に立ち向かった英雄を取り上げたルメット監督が本作では汚職する側に視点を移し、法律と忠誠、友情のあいだで引き裂かれる個人の苦悩を描く。派手な銃撃シーンなどは無く、ダニーの汚職をめぐる捜査と起訴の地道で地味なプロセスが3時間近くかけて丁寧に描かれる。

ランタイムは長いわ、登場人物は多いわ、人間関係は複雑だわ、地味な画面ばかりだわで、かなり人を選ぶ映画だと思うけど、ルメット監督の硬質な作風が好きな俺にはたまらない1本だった。2時間48分、お茶を飲むのも忘れて見入ってしまった。気軽に観れる1本ではないが間違いなく見返す。DVD超ほしい。

"街の王子"と呼ばれ奔放に振る舞うダニーだが家族からはそんな仕事ぶりが軽蔑され、おまけに反社の親戚もいることで自己肯定感が低い。だからこそ芽生えた良心の呵責から内通者になるわけだが、それは決して止められない法システムという巨大な歯車のスイッチを押すことになるのだった。

ダニーの前に次々と現れる捜査関係者、その数の多さが法というシステムの強大さを象徴しており圧倒される。仲間は売らないというダニーの誓いなど消し飛ぶし、それどころか捜査協力者のはずのダニー自身にも怜悧な法の刃が向けられる。法の前では誰もが残酷なまでに平等なのだ。友情や仁義など無意味。

劇中、ダニーの食事シーンが数多く映る。それは彼の心理的変化を表しており、前半は食欲旺盛だがどんどん食が細くなり後半になるとメシも薬も不味そうに口に運ぶだけ。あらゆるものを貪欲に飲み込んできた"街の王子"が正義感と裏切りと友情の全てを維持しようとしてキャパオーバーになっていく。

ダニーはセルピコのような英雄ではないし、かといって大悪人でもない、誰の心にも潜む小市民的悪だ。ラストでダニーはある"赦し"を得る。けどそれは同時に二度とは赦されない烙印でもあった。そのことを知ったダニーの最後の表情は…。短いが忘れがたい余韻を残す、見事なエンディングシークエンスだ。

https://x.com/syuhei/status/1726581022068973738?s=20
syuhei

syuhei