櫻イミト

プリンス・オブ・シティの櫻イミトのレビュー・感想・評価

プリンス・オブ・シティ(1981年製作の映画)
3.5
シドニー・ルメット監督が「セルピコ」(1973)と同じく警察内部の汚職を背景に描く社会派ドラマ。

ニューヨーク市警の麻薬課特別捜査班SIUは犯罪者逮捕のためなら大幅な自由が与えられており羽振りも良く“街のプリンス”と自称していた。しかしその実態は、逮捕した売人から薬物やカネを奪うなど暴力団まがいの汚職にまみれていた。ある日、SIUの最若手警官ダニー・チェロ(トリート・ウィリアムズ)は検事補カパリーノに呼び出され、汚職摘発への協力を依頼される。心のどこかに罪悪感を抱えていた彼は協力を承諾するが。。。

「セルピコ」は汚職まみれの警察組織で独り正義を貫いた警官の話だが、本作の主人公は真逆。仲間で汚職に浸っていた警官が現状を変えようと内部告発に協力する厳しい試練を描いている。

主演トリート・ウィリアムズは知らない俳優でいかにも華が無く好感度も薄い。それが等身大のリアルを感じさせ、意志薄弱な主人公がいかに更生するかというドラマの原動力となっていた。

とても見応えがあったが、主人公には始終イライラさせられずっとしんどい気分だった。SIUへの着任以来、何十件もの汚職を重ねてきた主人公は「今までにやった汚職は3件だけ」と嘘を抱えて内部告発への協力を始める。大切にしている警官仲間との汚職を隠す為だったが、当然そんな嘘が隠し通せるわけがなく、やがて仲間たちを窮地に立たせることになっていく。主人公は最初から愚かで身から出た錆にずっと葛藤し続ける。その姿は弱く情けないものだが、観客の誰しもが持つであろう弱さが共鳴し身につまされる。

クライマックスでは、主人公の嘘を知った検事たちが彼を告訴するかどうかを話し合う。“彼の嘘を内心では知りつつ利用し続けた我々も同罪ではないか?”。法律と善悪の境界線の揺らぎを提示した末に物語は終幕へと向かう。

長尺でカタルシスの少ない映画だが、バレたら命の危険にさらされる証拠集めの盗聴や、主人公と検事の間の綱渡りのような信頼関係など、ルメット監督の演出力によりハラハラしながら楽しめた。

地味だが人間ドラマとしての見応えある、「セルピコ」と対になる一本。
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