猫脳髄

カルの猫脳髄のレビュー・感想・評価

カル(1999年製作の映画)
3.5
「羊たちの沈黙」(1990)や「セブン」(1995)などの影響で、90年代には各国でサイコ・スリラー作品が量産された。本作はゴア表現を盛り込んだ本格クライム・スリラーとして韓国映画が国際進出する初期の作品となっている。ただ、5人も脚本に参加しているのはいい傾向ではなく、シナリオの混乱・錯綜による脚本家の出入りがあったと思って間違いない。実際、伏線が散りばめられたものの、解釈にかなりの余地と矛盾があり、肝心の謎解きはやや不首尾に終わっている。

遺体の一部を持ち去る連続男性バラバラ殺人事件の捜査にあたる刑事役のハン・ソッキュが、すべての被害者とつながる女性シム・ウナとかかわることで、事件の深淵に引きずり込まれていく…という筋書き。遺棄された血塗れの遺体や解体シーンを映し出すとともに、大規模なカークラッシュや活劇シーンなど、韓国映画らしい娯楽性も加味している。

ウナ(結婚後は引退状態らしいが)の友人に今や韓国随一のジャンル女優になったヨム・ジョンアが出演するなど演者は申し分ない。カメラワークもスタティックで過剰なところがなく、実録調のような淡々としたものである。ジャッロまたはヒッチコックからの引用と思しき「手袋にナイフ」の演出は憎い。

ただ上述のとおり、シナリオもしくは編集上の錯綜(上映分よりかなりの量撮影しているのではないか)があるが、殺害された男たちが「窃視」に対する罰を受けるという基調が一貫している点は興味深い。盗撮を試みるストーカー、娘を性的虐待する父親、そして自宅を監視する刑事たちがその報いを受けるのだ。さらに、ジョン・エヴァレット・ミレーの「オフィーリア」が重要なモティーフとして登場するが、水に沈む罰を受けるのは男たちなのだ。

瑕疵も多いが、国際進出を図った韓国産スリラーの嚆矢として本格派をめざしたことは評価したい。にしても「カル」(ハングルで刃物を指す)という邦題はどこから来たのか。日本オリジナルなのか不詳。
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