河

奇跡の丘の河のレビュー・感想・評価

奇跡の丘(1964年製作の映画)
3.4
キリストの誕生から復活までをネオレアリズモ、ドキュメンタリー的な方法で撮った映画。セリフは聖マタイのゴスペルからそのまま取ってきているらしく、映像がドキュメンタリー的で淡白なこともあり、何か事象として観測的、客観的に撮っているような感覚がある。 そもそもThe Gospel According to St. Matthew (聖マタイによって語られたゴスペル)っていう原題の時点でキリストのこの話を物語として割り切ってるというか、距離があるように感じる。そうだとすれば、この主題と方法を選んだ意図が重要な気がする。
物語としては神への信仰の失われたユダヤ教による専制社会に対して、キリストが神の使いとしてその社会を崩壊させる話。裏切りのモチーフとしても、その専制者達がブルジョワとして金銭を独占していることについても金銭が問題になる。それによってユダヤ教社会が当時の全体主義的な資本主義社会と重ね合わされているようにも思える。それによって、イエスの言う目があるのに見えていない、耳があるのに聞こえていないっていうセリフが現代の人々に向けた言葉のようにも感じられる。
この作品の英語wiki (https://en.m.wikipedia.org/wiki/The_Gospel_According_to_St._Matthew_(film))には、人類にとって重大な問いであり続けている信仰、生や死と苦しみの神秘を、それを見過ごしてきたマルクス主義者達へのアンチテーゼとして見せる意図があったと書かれていて、さらに無神論者なのになぜこの映画を撮ったのかって質問には自分に信仰があるかどうかは自分自身でもわからないって答えたって書かれている。そのため、マルクス主義者であり無神論者であるとされている、そう考えている監督自身を含めた人々への映し鏡のような映画なんだろうなと思った。神と矛盾する主義を持っていればそれはそのまま信仰がないってことになるわけではなく、矛盾していたとしても信仰、もしくは信仰と同じようなものを持っているんではないか的な。
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