だた

奇跡の丘のだたのレビュー・感想・評価

奇跡の丘(1964年製作の映画)
4.0
第44回ぴあフィルムフェスティバル特別企画 35mm上映にて

フィルム上映に際して、画面を走る傷やノイズ、変色は付き物だ。スクリーンの光にまだ慣れていないとき、目立つ部分でそれが発現するときに、少なからず我々の目は戸惑いを覚える。ただ、今回のように次のカットの影が直前のカットに焼き付いている逆残像のような症状が頻発するフィルムを観た経験は自分には今回が初めてだった。その焼け跡は、まるで映画が一本のロールであり、決められた物語を再生するだけの装置であることの偶発的な指標記号のように思えた。少なくともこの映画に関して、このフィルムのダメージは、僕に何か示唆的なものを感じさせるものだった。

世界一有名な物語といっても過言ではない新約聖書の映画化である『奇跡の丘』は、観客が既にその物語を知っていること前提に淡々と進んでいく。その進行速度と杓子定規的に禁欲された人物たちの表情は、一種の予定説然としたキリストの信念(信仰)の必然的強靭さ、その推進力の実感を与える。そして、その予定説は映画という装置にも同様に当てはまるではないか。35mmフィルムの上を漂うあの逆残像たちは、ある種のオーラ(霊感)としてこの映画に特別な神秘性を与えていたように僕は感じた。

奇跡は起こすものではなく、常に奇跡であるのが神。それは常に平坦な物語。
だた

だた