shibamike

学生心中のshibamikeのネタバレレビュー・内容・結末

学生心中(1954年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

学生心中。
「おっ」と思わせるタイトルに惹かれ、鑑賞。
確かに、主人公とヒロインの大学生アベックは最後に二人して死ぬ。
死ぬけど、二人とも死ぬつもりはなかった、という切ない顛末だった。ので、意外の感に打たれた自分は帰り道に「みゃっ」とキショイ言葉を発し、心の平衡を保った。みゃっ。


大学生の茂は両親を早くに亡くし、東京の裕福な叔父さんの家で世話になっている。しかし、茂の父が亡くなった後、未亡人となった母に叔父さんが何度も求婚していた、という過去を知った茂は「叔父さんは不潔だ!エボラだ!コレラだ!梅毒だ!」と激しい嫌悪感を抱き、叔父の家を飛び出し、自活を決意するのであった(母親の死因は父を追うかの如く自殺のような?死に方だったらしい)。

適当な下宿先を見つけて貧乏暮らしを始める茂。アルバイトと大学の日々。貧しい暮らしでも自分の力で生活していくことに人生の手応えを感じる茂。
そんなヤングマンにはやはり爽やかガールがよく似合う。偶然知り合ったおしゃま卓球女子 比佐子と即座にフォーリンラブする茂。
で、まあこの二人が最後死ぬ。

"しょんべん臭いガキのアホみたいな話かよ"、とかの映画では断じてなかった。

茂の母に何度も求婚した叔父にしても、下半身のリビドーから来るスケベで求婚していたとかではなく、真剣に愛してしまった故のやむにやまれぬ求婚だったのであった。結局叔父は独身を貫いており、言行一致の人。叔父を不潔だと罵倒する茂に向かって叔父が厳しく言い放つ。
「お前は本当に女を愛したことがあるか?」
茂がどう思ったかわからないが、自分は「無いね…」と寂しく無言の回答を宇野重吉に向かって念じた。

茂の母親にしても亡き父への愛情が甚だ深かったらしい。その愛の深さ故、父亡き後、母は死を望むかのように。叔父の愛は母に届く余地は無かった。

叔父はその後にも切ないことを言う。
「(自身の度重なる求婚が母を苦しめたことを踏まえ)人を傷つけ、自分を傷つける愛情というものがあるものだよ。私は一生死ぬまで苦しむだろう。それでも愛はどうにもできないものなんだ。」
愛って強烈で一人よがりで迷惑な一面もあるという気がし、取り扱い注意の代物だと思った。


茂と比佐子のロマンスであるが、二人の恋路を邪魔する要員がしっかり準備されている。茂を慕う金持ちの節子と比佐子に惚れる不良の龍一。

不良の龍一が茂の頭を思いっきりぶん殴った後遺症で茂は失明する(マジだぜ!)。
失明した茂を世話するには金が掛かるというので金持ちの節子は比佐子に茂を諦めるよう忠告する。
失明した茂を想い続ける節子は節子でいじらしい雌だと思った。

不良の龍一であるが、比佐子が「あんたのせいで茂さんは失明したのよ!」
と告げると「へへ!いい気味だぜ!」とほざく悪魔。しかし!詳しく彼の話を聞くと、彼もやはり悪魔のふりした天使だったのである。
本当は勉強がしたかったのに、家が貧乏で学校へろくに行くことができず、人生を投げやりになってしまった龍一だったのである。彼が涙を流しながら、比佐子の分厚い大学の参考書をめくっては、
「こん中にどれだけ素晴らしいことが書いてあるか知れないのに、俺にはそれが一生わからないんだ!」
家の事情で知的好奇心を殺さざるを得なかった龍一。切ないぜ。翼の折れたエンゼル。

失明した茂は生きる希望を失い、死ぬことを考えるのであるが、おしゃま卓球女子 比佐子のポジティブシンキングで考えを改める。
"二人で支え合って生きて行きましょう!"といい感じになったのに、二人がいい感じになった場所が豪雪吹き荒ぶ雪山だったため、二人はあえなく凍死してしまう。

翌日の新聞には「学生心中か!?」という文字が踊る。
ことの一部始終を見た我々には彼らが心中するつもりじゃなかったことは明白である。
心中とは反対に力強く生きる決意をした二人だったのですもの。

人生は思い通りにいかないものだよなぁ、と明るくなった劇場で誰にも悟られないよう放屁。

みゃっ!
shibamike

shibamike