にじのすけ

クロコダイルの涙のにじのすけのレビュー・感想・評価

クロコダイルの涙(1998年製作の映画)
3.7
医師スティーブン・グリルシュは、自分を愛してくれる女性の血を吸わないと死んでしまう男だった。彼は女性を誘っては完全犯罪を重ねていく。ところが新たな女性アンに出会ったスティーヴンは、彼女を本気で愛してしまい、アンの血を吸いかねていた。
最後にスティーブンが選んだ道は…。というお話。
本作は一見、ヴァンパイアもののように見えますが、それは一種のメタファーのようです。ところがさて、それが何のメタファーかというと、どうも製作者自身、明確なヴィジョンを持って作品を作り上げたとは言い難く、またそれとは別のテーマも盛り込んでしまった結果、鑑賞者側としても何が言いたいのかもう一つはっきりせず、非常に消化不良気味な作品になってしまった気がします。
で、ここからはこの作品が意味するところを個人的経験を引用して解釈してみます。おそらく本作の主要なテーマは「真の意味での愛が異性間で成立し得るか?あるいはそれがいかに困難なものであるか」という点にあると思います。心身ともに健全な男女の恋愛はともかく、本作のスティーブンやアンのように、精神的・身体的なトラウマないし欠陥を抱えた者同士の恋愛というのは、文字通り命がけのものとなるのだと思います。何故なら自分自身、欠陥を抱えながら一方で相手の苦悩をも引き受けなければならないからです。その極限は、どちらか一方の「死」に帰結するのです。これは私自身が精神的に深いつながりを持った異性の一人が、精神疾患および発達障害を背負っていた結果、私自身が抱える問題とスパイラルを成して、精神的危機状態に陥ってしまった経験から言えることです。そういった観点からすれば、この作品は色々な欠点がありながらも、異性間の愛情の深層に鋭いメスを入れたという意味で、見逃すには惜しすぎる意欲作だと思います。そして本作のラストが意味するところは、スティーブンがついに"無償の愛"を成就させたことにあると思います。
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