ポルりん

まんが日本昔ばなし “桃太郎”のポルりんのレビュー・感想・評価

3.4
恐らく日本で一番有名な昔話「桃太郎」を「まんが日本昔ばなし」にて映像化した作品。


あらすじ

川に洗濯にでかけたおばあさんは、川上から流れてきた桃を家に持ち帰ります。
その桃を食べようと切ると中から元気な男の子が出てきました。おばあさんはその子に桃から生まれた桃太郎と名付けます。
桃太郎はすくすくと育ち、りっぱな青年になりました。ある日、鬼に金品を奪われ、困り果てる村人を見て、桃太郎は鬼退治に行くと言い出しました。


今まで何度か「桃太郎」を題材にした作品を鑑賞してきたが、恐らく本作が最も完成度が高い作品だと思う。
素朴で味わい深い可愛らしいイラストと、芸術的且つ幻想性なのに心温まる雰囲気と音楽。
そしてそれらを100%以上に引き出している柔らかい語り口をする市原悦子と常田富士男。
これらのバランスが非常に良く、子供だけではなく大人でも楽しめるようになっている。

脚本に関しても色々と子供の成長に向けて改良している点も評価できる。
大体の「桃太郎」は、鬼が特に悪事を働いている訳でもないのに、鬼だからというレイシスト的な短絡的且つ愚かな思想で、鬼が島に侵入し根絶やしにするというものが多い。
その後、あろう事か鬼たちが貯めた財宝を強奪し、その財宝を自宅に持って帰り豪遊するといった鬼畜窃盗集団を描いたパターンが多いため、個人的には道徳的な観点で子供には見せたくない作品と思っていた。

しかし本作の場合は、鬼たちが村人達から金品財宝を強奪する場面がしっかりと描かれているので、金品財宝を奪い返しに行くといった目的が提示され、単なる侵略ではなく明瞭化されている。
また、鬼が老人を蹴り飛ばす描写、桃太郎の正義感溢れる描写、取り返した財宝を己の私利私欲に使わず村人に返す描写を入れることにより、ただの鬼畜窃盗集団だと視聴者に連想することなく、良質な勧善懲悪物語と認識させるのに成功している。

あと、金品強奪の為に、鬼の巣窟に真正面から突入など、幻影旅団くらいの戦闘力がないと不可能だと思うのだが、絵本などでは桃から出てきたガキと小動物だけで鬼たちを殲滅している。
全く持って説得力のない話ではあるが、本作では「きび団子」を食べることにより戦闘力が大人千人分上昇するといったドーピング効果が追加されているので、ある程度説得力が増している。
とはいえ、子供に戦地に向かわせるジジイとババアのモラルセンスのなさが目立つ。
そもそも巨大な桃を自宅に持って帰る怪力ババアが、ドーピング桃を食べて、出刃包丁片手に鬼が島に突入すれした方が充分な戦果を得られると思うのだが・・・。

そういえば、カズレーザーも指摘していたが、鬼たちは貴金属を介した貨幣経済の概念を有していたというのもそうだが、そもそも「桃太郎」の時代設定とされる鎌倉~室町辺りで、普通の村人が金銀財宝を貯める余裕があったのだろうか・・・。
あと、細かい事だけど、桃太郎の設定で桃から生まれた事になっているが、「桃から生まれた」ではなく「桃から出てきた」が正解じゃないのか・・・。
本来の「桃太郎」は、流れてきた桃を食べたジジイとババアが若返り、その晩にSEXしてババアから生まれた子供が桃太郎である。
子供の名前にSEXするまでの経緯を入れるのはどうかと思うが、とにかくこの話を児童書にする為に改変されたのだが、みんなの知る「桃太郎」だ。
まあ、「生まれた」という言葉までは改変してなかったようだが、本作ではその部分もしっかりと表現して欲しい所である。

また、素朴で味わい深い可愛らしいイラストや柔らかい口調を鑑みても、どうしても鬼が宇宙の帝王フリーザや魔人ブウ(純粋)のような絶対悪の様には見えない。
どうせなら、人がそれを拒んだ結果鬼は暴力的手段を選ばざるを得なかったなどの、鬼たちのバックストーリーを描き、その上で葛藤なども描いけばかなり完成度の高い作品になっていたと思う。
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