ふじこ

プレシャスのふじこのネタバレレビュー・内容・結末

プレシャス(2009年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

貧困家庭のお話かな、と思いきや。

主人公プレシャスはとても太っていて学校には通うものの誰とも話さず、成績も良くない。そうして時折、目にした素敵な物の主人公になったような妄想に逃げ込み生きている。
太っている為気付かれないけれど、彼女は妊娠しており、学校を退学になってしまう。
家では生活保護を受け毎日TVを観るだけの母親に怒鳴られ食事を作らされ時に手を上げられる。
プレシャスには実は既に子供が居て、ダウン症で面倒は全て祖母に押し付けられており、ソーシャルワーカーが来る時だけ母親は良い顔を見せる。
最初の子は実父に、今お腹にいる子供も、義父によるレイプによって出来た子供。

ここまでで十分に酷い。貧困は学が付かない、とは一概に言えないけれど、貧困の連鎖、無学の連鎖は起きやすい。
そうして自己評価を低め、何もかもを諦め易きに流れた結果がプレシャスの母メアリーなのではないだろうか。
しかし諦めた結果である自分の夫さえもがプレシャスを求め、彼女のなけなしの自尊心すらボロボロで、それらへの憤りも全てプレシャスが受け止める事になる。
決して擁護する事は出来ないし劇中で描かれてはいないけれど、メアリーもまたこの様な家庭で育ったのではないかと想像した。
でもきっと、最初から彼女の事を"産まなければ良かった"と思っていた訳ではなく、益々以て"プレシャス/大切な~"の名前が悲しく響く。

学校を退学になり、母メアリーには勉強なんか意味がないとどやされながらも、学習支援の場であるフリースクールへと辿り着き、先生や同じく問題を抱えた仲間達と少しずつ打ち解ける事に成功。
更には指導によって段々と読み書き出来るようになり、将来の事へも想いを馳せるが一方では、レイプされただけだと言うのに母には男を寝取った等と暴言を吐かれ、堪らなくなった彼女は生活保護を管理するソーシャルワーカーに全てを打ち明けてしまう。

課外授業やノートでの交流で"信頼出来る他人"がいるのだと学べたプレシャスは無事に出産し、生まれた男の子をアブドゥルと名付ける。担当してくれた看護師も、お見舞いに来てくれた友達も、嬉しそうだった。
アブドゥルを放り投げて殴りかかる母親からシェルターに逃げ込み、束の間の平穏を味わうも、自分をレイプした義父がHIVで死んだとの報せ。
プレシャスもまた陽性であり、その事実に打ちのめされる。

ソーシャルワーカーと母親を交えた面談では、夫に嫌われたくなかった、夫が居なければ誰が自分を女として愛してくれるのか、と自己弁護に徹する母に、もう会わない、と告げて去るプレシャス。
彼女はこんな現実に向き合っても尚、子供を育て、勉強をし、将来を見据えていた。

重い…。
プレシャスはまだ16~17歳で、母に虐待され、父親達にはレイプされ、ダウン症の子と乳飲み子が居て、勉強にもまだまだついて行けていない上にHIVで一生薬を飲まなくてはならない。
しかしながら、この現実でも子供を手放さず、自分の将来を夢見るのはまさに世間を知らず学のない証左であるような気がして余計に悲しい。
先生の言うように、きちんと大切に育ててくれる里親なり養子に出す方が結果的に子供の幸せになると思うのだけれども。

貧しい家庭でも立派に育って社会に羽ばたく人もいれば、そうでない人も沢山いて、そしてその側には虐待や犯罪が見え隠れする。
彼女は子供の事を本当に大切にするのかも知れないけれど、その後の健康問題、学習問題、その後の仕事や彼女自身の人生を思うと何一つ明るい兆しがなくて、"今を脱した"に過ぎず悲しい気持ちで観終わってしまった。
ふじこ

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