シズヲ

レモネード・ジョー 或いは、ホースオペラのシズヲのレビュー・感想・評価

4.0
チェコスロバキアが生んだ社会主義圏の西部劇、通称レッド・ウエスタン!酒を一切飲まずにレモネードのみを嗜むガンマン“レモネード・ジョー”の活躍を描くコメディ西部劇!“酒を嫌って炭酸飲料を推し進める”という主人公の要素からして西部劇のアンチテーゼめいている。

現チェコにおけるコメディ映画の巨匠、オルドリッチ・リプスキーの代表作。当時のソ連のフルシチョフ政権下における表現規制の緩和が『荒野の七人』などの西部劇の普及を齎し、それらが商業的に成功したことで東側諸国での西部劇の製造が進んだらしい。

本作はセピア調のモノクロ映画だが、実際に蓋を開けてみると黄色や赤色などの鮮明なトーンで彩られた映像に度肝を抜かれる。街も空も土も真っ黄色に染まった画面の異様さだけでも一種の異界じみている。その色彩によって強調される陰影もまた印象的。時折見受けられるクローズアップの映像やカットの切り替わりなんかはマカロニ・ウエスタンの先駆けめいている。レモネード・ジョーが見上げる空に何故かヒロインの窮地が浮かび上がったりなど、時折見受けられるシュールな演出も笑う。

そして本作は徹底して初期西部劇のパロディ的作風であり、トーキー黎明期に見られた“歌うカウボーイ”を思わせるミュージカル要素が盛り込まれている。レモネード・ジョーは勿論景気良く歌う、Wヒロインもやっぱり歌う、悪役ガンマンも当然の如く歌い出す。オープニングのアニメーションも含めて、何処か憎めない味わいに満ちている。

更にはサイレント期の早回しアクションやスラップスティック・コメディの要素も取り入れられ、とにかくドタバタとコミカルな躍動を繰り広げる。冒頭からいきなりユーモラスな大乱闘が飛び出すほか、やたら飛んだり跳ねたりするアクションや只管相殺し合う決闘などで笑う。作中では終始に渡って脳天気なユーモアが貫かれているので何だか微笑ましい。

印象的なのは商業主義・資本主義への風刺であり、レモネード・ジョーは“レモネードを売る”という商売のために善玉の役割を貫いている。西部劇の典型的正義観が商業主義的な行動理念と接続している。ジョーとヒロインの婚約でもがっつり資産や所得の話が飛び出し、ラストではレモネードによる死者蘇生という誇大広告(?)までやってのける。極めつけは散々悪の象徴として吊し上げていたウイスキーとのビジネス的融和である。そのビジュアルと風刺性も含めて、本作のアシッド・ウエスタン的な要素について言及されるのも分かる。
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