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ゴッドファーザーのsowhatのレビュー・感想・評価

ゴッドファーザー(1972年製作の映画)
4.0
【偉大すぎる父と家督相続:マイケルは「権力」を手に入れた】

映画公開後には実際にマフィアの入団希望者が増加した、という証言があるほど人気となった本作。
その魅力は何と言っても、ヴィトー・コルレオーネというキャラクターに負うところが大きいと思います。

裸一貫でのし上がり、妻に一途で、何よりも家族を大事にし、仲間とは熱い友情と恩義で結ばれ、麻薬を憎み、暴力は過度にならず、注意深くて、法で裁けない邪悪を懲らしめるダークヒーローで、政治家や権力者にも媚びへつらわない、撃たれても死なない、マイケルへの権力の委譲も完璧。欠点といえば滑舌が悪いところくらいです。こんな男がいたら、そりゃみんな頼りにするでしょう。徹底して「良いドン」として、彼の悪行は一切描かれません。本作の欠点は「欠点がない」ということ、マフィアのドンをここまで魅力的に描いてしまったということ、そう言えるかもしれません。

頭の薄い初老の葬儀屋アメリゴ・ボナセーラの独白で始まるオープニング。彼はこれまで距離を取ってきたマフィアのドンに、娘の復讐を依頼します。ヴィトーは後に、その時の貸しの代償として、息子ソニーの遺体のエンバーミングを依頼します。このエピソードには金のやり取りは一切絡みません。「恩」には「恩」で報いる。まるで一本の映画ができそうなほど胸にしみるエピソードです。ヴィトーというキャラクターに命を吹き込んだマーロン・ブランド、画面に映っているだけで、映画に説得力と重々しさをもたらします。

一方三男のマイケルは賢い男ですが、欠点も抱えています。まず、恋人ケイへの執着。二代目ドンとなったのに、一度関係の切れていたケイと半ば強引に復縁します。この彼の行動は、生涯にわたり彼自身を苦しめることになります。カタギの現代アメリカ女性に、マフィアの生き様を理解せよと言う方が無理な話です。妹のコニーもチンピラと結婚するし、マフィアには「政略結婚」という知恵はなかったのでしょうか。マイケルは自分の経験で懲りたのか、娘にはマフィア男との交際を頑なに認めません。やってることと言ってることが逆です。

マイケルのもう一つの欠点は、手っ取り早く皆殺しにしちゃうこと。父の敵であるバルジーニや裏切り者の内部粛清は仕方ないとして、他の五大ファミリーのドンと目障りなモー・グリーンもついでにみんなまとめて整理してしまいます。義理もへったくれもありません。手段を選ばずに権力を手に入れたマイケル。彼の今後が危ぶまれるエンディングでした。

麻薬の販路を拡大したいソロッツォはヴィトーに投資を持ちかけますが断られてしまいます。それだけでヴィトーを殺そうとするでしょうか?なんか動機として弱いと感じました。ヴィトーを消して息子であるソニーと商売をすると語るソロッツォの構想はとてもうまく行くとは思えません。さらに交渉の場にはソニーではなくカタギのマイケルを指名します。ついでに買収した警官を同席させます。このあたりの不自然さは、マイケルをストーリーの中心にもってくるための脚本上の欠点に見えてしまいました。
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