No.3376
『青山真治はいま、天国から何を思うのか・・・。』
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なんでこうなるの? ってくらい、物事が悪いほう悪いほうに転がって、収拾がつかなくなるパターンの映画。
そういう構造の映画自体は珍しいものではないし、まして、そこに「暴力」が絡んでくるというのは、ある意味常道といってもいいかもしれない。
本作は奥田監督25歳時、商業映画デビュー作ということだが、そう考えると、
シネフィルのオジサンたちが寄ってたかって粗探しするより、なんだか長い目でじっくり応援してみたくなる感じがする。
少なくとも、必死に、何かを捉えようとしている姿勢が、この映画には感じられる。
イキった野心的な若い監督が、ノリと勢いだけで撮ってやったぜ、という感じとは違う印象を受けるのです。
いや、別に奥田さんがイキった野心的な若い監督でもいいんだけど、
このまま経験と本数を重ねていったら、40代くらいで凄い映画を撮るんじゃないか、みたいな期待感がある。
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なんでそんなこと思ったかっていうと、奥田監督が、あの青山真治監督と対談してる動画があるんですよ。
この2人のつながりはよくわからないんだけど、とにかく、これで商業デビューした若い監督と、カンヌ受賞経験者の大先輩が対談してる。これだけでレアなわけです。
しかも青山さん、この作品をとにかくべた褒めしてるんです。
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じゃ、青山さんも認めた若き才能なら、その後もバシバシ映画撮ってるんだろうなぁ、って奥田さんのフィルモグラフィーを見ると、
なんと、その後、商業ベースを離れて、自主制作にいっちゃってる・・。
自分の企画がなかなか通らない不満から、ならば自分で好きなものを撮ってしまえ、ということでクラウドファンディングで制作資金を集めて撮ったのが、
問題作『クズとブスとゲス』。
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なんだ、自分で好きなもの撮れたんだからよかったじゃん!
・・・とは単純にいかないのが、大人の、ビジネスの世界・・・。
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だって、デビュー作で光石研さんとか大森南朋さんとか名だたる俳優に出てもらって、当然技術スタッフも超一流という中で商業デビューして、
それを青山監督にお墨付きもらっていながら、
その次に自主制作に走るって・・・これある意味、これまでいろいろお膳立てしてくれた「プロフェッショナルな映画人たち」に、喧嘩売ってるわけです。
自主なら、別に誰でも撮ろうと思えば撮れるんです。素人でもスマホでも撮れる。
しかし、プロの商業監督になるには実力だけでなく、運や人脈やなんやかやいろんなものが必要で、その分、もちろん様々なしがらみやら理不尽な要求やらが発生するわけだけれども、とにかく、誰でもすぐなれるわけじゃないわけです。
それなのに、自主へいっちゃった。
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そして、その自主映画『クズとブスとゲス』は、東京フィルメックスにて上映され、大反響を巻き起こした。
買い付けも決まって、渋谷ユーロスペースで公開もされた。
つまり、少なくとも監督自身にとっては「手ごたえ」があったはず。
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しかし、手ごたえを得て一応成功してしまったことが、逆に今後、彼の監督人生にどう影響するか、吉と出るか凶と出るかは、正直分からない。
嫉妬と同調圧力と、言うこと聞かない奴は干す、そういうことが当たり前のこの国の映画業界で、果たしてこの監督はどういう選択を迫られていくのか。
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茨の道であることは間違いがない。
しかも、その茨の道に更に拍車をかけるのが、昨今のパワハラ・セクハラ告発合戦の影響。
特にこの監督のような、暴力描写の多い映画は、撮影現場でちょっとでもスタッフや演者に負担がかかるようなことがあると、
一気に槍玉に上がる可能性があり、しばらくは相当神経を使う、撮りづらい時代が続くと思う。
(現実に、小林勇貴監督は『ヘドローバ』問題が一斉に拡散され、謝罪文を出さざるを得なくなった)
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そんな茨の道に進むことを余儀なくされた奥田さんを、暖かい眼差しで絶賛してくれた青山監督は、いま、天国でなにを思うのか・・・。
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あと、エレカシの曲、超絶かっこいい!!!