てつこてつ

800 TWO LAP RUNNERSのてつこてつのレビュー・感想・評価

800 TWO LAP RUNNERS(1994年製作の映画)
3.8
川島誠氏の原作は未読。Wikipedia情報が正しければ、映画だけを見た印象でも、思春期の若者達ならではの繊細な恋愛感情、性への衝動などを巧みに描いていて、中学校の国語の教科書で推奨図書として紹介されているというのも納得。監督は「さよなら歌舞伎町」などの廣木隆一。

1994年に、このような佳作が製作されていたとは驚き。800m走のインターハイ代表のライバル同士であり、性格が全く異なる男子高校生二人のキャラクター設定が巧み。

今流行のBLという言葉は簡単には使いたくないが、この時代に、体育会系の選手だからこそ・・かもしれない、思春期ならではの、強い選手や憧れの先輩への想いが恋愛感情に発展するケースも有り得るであろう、男性同士の肉体関係を示唆したり、イケメンの実の兄にキスまで迫る妹の近親相姦的なタブー要素を、後味爽やかで、しっかり作り込まれた青春映画の中に上手く落とし込んでいるテクニックに感心した。

舞台となる湘南エリアや三浦半島界隈なのかな?・・・海辺の風景が美しいし、主人公の一人が冒頭に初めて800mを走ってみるシーンは躍動感溢れる撮影手法で引き込まれる。ラストシーンの、おそらくインターハイ決勝選の、それぞれの想いがヒシヒシと伝わる800mの走りを、実際に二人の役者、エキストラにきっちりスタートからゴールまで走らせ、トップ争いを最後まで繰り広げる二人の主役の表情をアップで捉えながらワンカットで見せた演出は秀逸。

何よりも、ライバル関係の二人を演じた、これが映画主演デビュー作であった松岡俊介と、野村勇迅(いたいた!懐かしい!「北の国から’95 秘密」とかで強烈に印象に残っている!)、彼らと恋愛関係になる同じく高校代表レベルの陸上部所属の女性選手役の女優さんの身体面での役作りのレベルが、日本のスポーツを題材にした作品ではなかなか見られないほど高い。実際に陸上競技経験者の俳優を優先的にキャスティングしたんじゃないかと思うほど。

元々筋肉質な野村勇迅もそうだが、松岡俊介のレース時や練習時で見せる脚の筋肉の付き具合と上半身のバランスは、100m走の選手程には筋骨隆々でもなく、それこそ、先日の東京五輪の800m走に出場した選手同様のしなやかでありながらも中距離走を専門とする選手特有の見事に発達したもので、作品中でも彼の太腿のアップからカメラがズームアウトして松岡俊介の全身を映すほど、相当、トレーニングを積んだ成果が伺える。同じ陸上部員メンバーやレース時のエキストラも、陸上競技の名門校の一つである法政大学陸上部の全面協力で、画面に映る全キャストが一流選手レベルに見える拘りはお見事。

個人的には、やはり、野村勇迅の、ややバタ臭い顔立ちながらも野性味溢れ、且つ、確かな演技力を持つ役者さん(流石、奈良橋陽子さんのご子息!)が、今の日本映画では若手俳優さんではなかなか見つけられない希少価値があり、もっと他の作品でも活躍してほしかったなあと今になって思う。

露骨過ぎない、廣木監督らしい一種独特なエロティシズムの演出も好き。
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