Jeffrey

ファザー、サンのJeffreyのレビュー・感想・評価

ファザー、サン(2003年製作の映画)
4.0
「ファザー、サン」

冒頭、屋根裏部屋に密かに暮らす父と息子。官能的、濃密な2人の関係、元軍人、古びたアパート、トラブル、母の死、坂の多い街の風景、肩車、殺す夢、森の中、暴力、雪。今、お伽話の関係性が赤裸々に映される…本作はソクーロフが前作「マザー、サン」に引き続き近親をめぐる3部作の第2作で、この度DVDボックスを購入して鑑賞したが傑作にもほどがある。2003年の作品で独、仏、露、阿合作の映画である。まず、プライベート的な映画と感じるのはこれを見た人は大抵思うと思うのだが、このアプローチがすごい。普遍的な人間観を反映しつつ、無視できない死と言う要素を取り入れ、人間の関係性と焦点を映している点は流石である。


この作品はタイトルから読み取れる通り、父とこのテーマを描いている。前作の「マザー、サン」から6年後にようやく発表されたこの2作目は母と子以上に様々な文化的なものが入り込み、複雑性を増している。要するに単純な作品ではないと言うことだ。それに舞台も様変わりしている。「マザー、サン」の方は大自然の中に一軒家がそびえ立っている小宇宙の中でしか描かれていなかったが、この「ファザー、サン」は大都会の1つの都市を舞台に、父と子の他に複数のキャラクターが登場する。

ところで、この作品を見た人は大体ホモセクシャル性に満ち溢れた同性愛映画と思ってしまう方もいるかもしれないが、果たしてそうだろうか。確かにホモ的な男たちの肉体がもつれ合うシーンから始まり、そこからも色々とゲイだと思われるような発言や典型的な関係性が写し出されるが、こんな単純な解釈でこの作品を見ていいのだろうかとふと思ってしまう。


一応息子のアレクセイには恋人の少女がいるし、そこまで激しいセックスシーン(もはやセックスシーンなど無いに等しい)もなければ文脈的にも少しばかり違うような気がする。あくまでもこの作品は妻を若くして亡くした父親が息子に見受けられる妻の面影を愛しているとの事であるし、ただ親密な父と息子の関係性を描いているような映画だと思える。とはいうもののやはり映像を見てしまうとほぼホモセクシャルな映画だとは普通の人だと思ってしまうだろう。



さて、物語は古いアパートの屋根裏の最上階に父と息子の姿が映される。若くして妻を亡くした父は息子に妻の面影を見て取る。父親は退役軍人で、自分の愛する航空連帯から去っている。そして息子は父と同じく軍人になる運命を持つ。そうした中、本能的に2人は体を密着させる。それが父親にとって愛する女性との一体になれる一時なのである。やがて息子は20歳になり、父親との決別をするのである…と簡単に説明するとこんな感じで、非現実的な物語であるが、普遍的なテーマがきちんと入っているおとぎ話のような葛藤映画である。


本作は冒頭から非常に魅力的なシーンである。父と息子が体を密着する場面を静かに捉える。2人は小声で"大丈夫"と言い語り始める。カメラは太陽光に光り輝く2人の表情をクローズアップし、息子が裸体のまま河の水に濡れるカットと自然を満喫するクロスカッティングが行われる(女性2人も映る)。

そして並木道で軍人と歩く女性、ここは軍学校であろうか、沢山の軍人が入り乱れる。そこでは息子と女性が窓越しに会話をし、軍人である父が見守る。そして学校の中では体力づくり、訓練の描写がなされる。そして息子が迷彩服で帰宅したことに父親は不満そうである。2人は少しばかり口げんか的な雰囲気を醸し出しながらチャイコフスキーの音楽をラジカセから聞く。


そして息子は父親の顔に触れる。そして息子は"なぜこんなに違うのか"と言い、父は"お前は次の世代だ、私は過去の世代だ"と話す。そうした中、カメラは室内を撮り、古い写真を見ながら1人つぶやく父の後ろ姿と手元のアップを捉える。息子はひたすら"父さん"と繰り返し口にする。それに対し"どうした"と父親が自分の部屋から息子のいる部屋へ来て、息子は"母さんは"と言う。そこで妙な間が起こる。そして2人は抱き合う。

続いて、森の中で軍服を着た親子が走るシーンへと変わり、屋根の上で筋トレをする父、窓から窓えと板を伸ばして遊ぶ息子に暴力を振るう父、屋根の上でボール蹴りをして遊ぶ親子と様々な場面が映る。そうした中、美しい風景と共に残酷な決別の日が父親と息子に訪れる…。





いゃ〜大傑作やね。

まず、今までと違って撮影監督がアレクサンドルブーロフになっている。彼の捉える絵画的な美しい映像には息を呑むほどだ。ソクーロフ組の今までの撮影と何ら変わらない演出過程はきっと監督が彼に導きを与えたのだろう。


例えば、群学校で息子と女性が窓越しに会話するシーンなんて顔を近寄せながら話し、距離を詰めたショットなんてエロスを感じるし魅力的である。どってことない演出なのだが、なぜだか引き込まれるフレーム作りだ。この作品は冒頭からそうだが、非常に被写体のクローズアップが見受けられる。それに街の窓と窓の隙間から板を伸ばし、その板の上で遊ぶ息子のアレクセイを捉えたフレームで、家と家の間から見える美しい海がまたとんでもなく綺麗なのである。

この作品は入り込んでる街並みのせいか、人々が屋根の上に上がる場面が多く捉えられるのだが、主にこの親子が屋根の上に乗り、父親が息子に肩車をする場面の風景との交わりのフレームが本当に奇跡的に美しい。あー言う場面をため息が出るほど美しいと言うのだろう。周りが海に囲まれていると言うこともあるだろうけど、本当にソクーロフの画作りは素敵だ。


この作品の個人的に素晴らしいと思ったところがまず父と子供の関係性である。とりわけ父親世代と息子世代の価値観を写しつつ、そういった社会の現状を違った角度で捉えている。例えば父親は元軍人で国のために何人もの敵兵を殺してきた。ところが息子は同じく軍学校に行って学ぶも、軍学校の教員もしくは軍医として職務を目指そうとしている。ここでまず父親世代と息子世代の違いが明らかにされる。それが息子が父親に対してのメッセージであり、父親と息子が決別するまでのストーリーを順調にもっていくカギになる。やはりロシア文学の伝統の中にも父と子の普遍的なテーマは存在しているのだろうと思わされる。


私は有心論者ではないため、宗教的なことに詳しくはないが、この作品を見るにあたってはイエスの受難がなんとなく垣間見れるような気がする。うまくは説明できないのだが、どうしても聖書の中の事柄が裏にあるような気がする。それにしてもソクーロフの作風っていうのは架空の都市がよく現れる。彼の初期の作品もそうだし、この作品も架空の都市を構築している。


それとソクーロフの作品の印象の1つには、プロの役者を使わずに素人を脇役や主人公に与えていることも多くある。彼が撮る作品は娯楽映画ではなく商業映画からも離れている芸術性の高い作品かつプライベートなものが多いため、素人のぎこちない演出とかがかえって良いのかもしれない。



そしてクライマックスの雪が積もるラストショットの余韻はたまらない…。そして最後に息子のアレクセイが繰り返し放つ1つのセリフが、ものすごく印象的で、最後に引用する。


"父の愛とは苦しめること、息子の愛は苦しむこと"
Jeffrey

Jeffrey