Jeffrey

鉄砲玉の美学のJeffreyのレビュー・感想・評価

鉄砲玉の美学(1973年製作の映画)
3.5
「鉄砲玉の美学」

冒頭、兎売りのチンピラ小池。ヤクザの道へ、九州宮崎へ鉄砲玉として派遣される。クラブの女、ドライブ、麻雀、暴力、拳銃、頭脳警察の音楽、金、報酬、濡れ場。今、欲望と破滅に導かれる一人の男が映し出される…本作は一九七三年にATGで中島貞夫が監督した従来のヤクザ映画とはー線を画した異色作で、この度DVDを購入して鑑賞したが伝説のロックバンド頭脳警察のメロディーに乗せて魅せる渡瀬恒彦のエネルギッシュな芝居が最高のー本である。

かなりの体当たりで熱演している彼は二〇一七年に亡くなられている。本作はアートシアターギルドの自由な条件下で監督したため、凄まじい映像になっている。やはり監督には自由を与えなければダメだと思う。この作品は普遍的なテーマを取り入れつつ、青春像を成立させているところがある。

また極限状況下での主人公の欲望と破滅をとことん突き詰めているのもジャンルを超えた何かを感じる。だけど正直言うと初めて独立プロで自由な条件のもとで監督した割には設定は東映のチンピラ映画まんまである。それでもロマンポルノ映画群に対抗している監督の精神には拍手喝采を送りたい。


さて、物語は、路地でウサギを売っているチンピラの男は日々麻雀友達と賭けをしている。賭けに負けると自分の女から金を借りてそれで再度麻雀をする日々。ある日、ヤクザから百万の報酬で九州宮崎に降り立つ。彼は鉄砲玉としてエネルギッシュに対抗する組の連中と対峙する。軈て…

本作は冒頭にロックバンドの音楽が流れ、街のロングショット、肉をほおばる女の口元、アイスを舐める子供の口元、パンをほおばる女の口元わゴミ収集車の廃棄処理の中、セックス描写、街の風景、混雑する道路、車廃棄場、残飯のグロテスクな描写等が写し出される。そして一人の男が道端で兎を宣伝しながら売っている。だが、誰も買わない。カメラは怪しい取引を映す。鉄砲玉として宮崎に誰かを送れと言う声が聞こえる。こいつに死んでもらって一気に戦争やと言う。

男の名前は小池清。元調理師の男で料理はうまい。彼はウサギを家で飼っている。知り合いの悪友と麻雀をしている描写、金が欲しいと皆嘆きながら遊ぶ。カメラは麻雀の手元をクローズアップする。小池は麻雀の賭けに負けてしまい小池の女よし子に一万を借りに行く。女の自宅へ。小池は女がウサギにしたことを怒り、暴力を振るう。女はここは私の家だから出て行けよと言い彼は出て行く。そして賭けを再開。

続いて、小池は拳銃を持ち、女が車の中でレイプされかかっている所を助ける。そして宮崎の空港へスーツ姿で登場する。彼は報酬百万である仕事の依頼を受ける。夜のバー、小池は隣に座っていた女にここのシマは誰のものだと聞く。カットはすぐに代わりに、スナックで呑んでいる。そこに二人のヤクザがくる。小池と睨み会話、小池は店から出て行く。夜の街を歩く小池。後を白いスーツの男に追われているのに気づき、走る小池、その男を拳銃で殴り気絶させる。そしてホテルへ。

翌日、兄貴と小池が読んでいる男からホテルに連絡が来る。彼はその電話で起き話をする。どうやら殺す標的の話らしい。とあるクラブ。クラブ「アモール」のオーナーで南九会幹部の杉町と対面する。天佑会のチンピラで鉄砲玉になった小池は宮崎の海岸沿いで車の中で歳のいったホステスのゆき と接吻をする。そこに赤いジャケットを着た美しい女を見かける。続いて、杉町の子分であるサングラスをかけた男が小池をマークしていて、ナイフで襲うが返り討ちにされる。

そして杉町がそのマークしていた男をボコボコにして、小池に今日の事は勘弁してほしい、大阪の方には言わんといてほしいと彼にナイフを渡してコイツを好きなようにしてもいいと言う。小池はそのナイフを捨てて自分の拳銃で彼を撃とうとするが撃たずにその場を立ち去る。そこで杉町の子分の誰かの声があいつ大阪に言うてしまうで、これはやばいことになったと言う。そして小池の元へとある女が現れる。彼女は杉町に頼まれて今日のことを天佑会には言わないで欲しいと命じられて来たそうだ。

続いて、その女との濡れ場のシーンに映る(ここでは小池清の回想が映り込む)。そして小池とその女は結婚式会場のようなところにいる。どうやら小池の知り合いの女が結婚式を挙げたようだ。カットは変わり、風呂場でその女に全身を洗ってもらってる小池の裸体が写し出される。そして物語は徐々に佳境を迎え、血の気が多くて、クソ度胸があって、できるだけドでかい音を立てて弾けるヤツが人生をエネルギッシュに変えて行く…と簡単に説明するとこんな感じで、やくざ映画の中では重要な作品とされているにもかかわらず、主役の渡瀬恒彦が亡くなってから円盤化されたそうだ。そもそもVHSもなかったらしい。


この映画面白いことに小池が後に所属する天佑会の会長や幹部は一切姿を見せず、声だけの出演になっている。それから配役不明の登場人物が複数いるのも笑える。 渡瀬恒彦が鏡を見て自分で自己紹介の練習をする場面が可愛らしい。あのラストの山間の風景ショットとバスの中の〇〇がとても良かった。それに兎の描写も忘れずにきちんと映し出されるのも良い。そして、拳銃と兎のカットバックとロックバンドの音楽が彩られるクライマックス。

この作品はファースト・ショットとクライマックスが非常に印象的だ。それにしてもこんなにダサイヤクザを見たことがない。この格好悪さがまたたまらなく良いのである。どうやらこの作品が公開された時期には深作欣二監督の「仁義なき戦い」も公開されてたらしい。確かにその時期か…九十年代に入ると映画好きの中ではこの作品はメディア化されていなかったため見る術がなく、カルト中のカルト映画として瞬く間にシネフィルの間で噂になったらしい。
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