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鰐 ワニのnetfilmsのレビュー・感想・評価

鰐 ワニ(1996年製作の映画)
3.7
 韓国のソウル市にある漢江。その川の波は穏やかで、夜の明かりは乱反射し、ゆらゆらと揺れる。川が見渡せる橋には、毎日いくつもの曰く付きの人物たちが圧倒的な川を前にして躊躇い、時に全ての感情を捨て自分の身を投げる。その様子を夜通しじっと見つめる浮浪者ヨンペ(チョ・ジェヒョン)の姿がある。彼は浮浪者仲間から鰐と呼ばれていた。ワニは常に自分から獲物を探したりしない。ゆっくりと獲物が近付くのを待ってから、躊躇なく丸呑みする(捕食する)が、この男の卑劣さも例外ではない。身投げした男女は全ての身ぐるみをはがされ、盗品は全て売り飛ばす。もしもキレイな女なら、躊躇なく強姦する男の前に飛び降りたのは、ヒョンジョン(ウ・ユンギョン)という名の女だった。

 キム・ギドク映画の男たちはいつも欲望に忠実で、生も死もない世界を生きている。全ての痛みと苦しみ・哀しみを背負ったような漢江の静かな波の下に住む男の正体は、まさに最底辺にあえぐ鬼畜そのものだ。悪魔は女たちを最期に性のはけ口とする。飛び降りた先には更なる地獄が待っているわけで、彼の采配は悪魔の所業である。しかしヒョンジョンの「無」の感情を前にすると、男の衝動は緩む。そこに悪魔は天使を見たのだ。彼女が描いた男の絵と、憎悪を背負ったモンタージュ写真との間にどれだけの差があるだろう?悪魔は天使の描いた表情に、これまで行った悪魔の所業を見つけ、神に懺悔する。疑似家族に迫った別れの季節、青いペンキで甲羅を塗られた亀は夢か幻か?手錠で縛れば縛るほど、男と女の魂はするすると抜けて行く。処女作のこの現世をあざ笑うかのような最期が、奇しくも監督の最期の瞬間とも重なるのは皮肉だろうか?

新型コロナ・ウィルスにより、59歳の若さで亡くなったキム・ギドク監督に、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
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