てつこてつ

鰐 ワニのてつこてつのレビュー・感想・評価

鰐 ワニ(1996年製作の映画)
3.8
鬼才と呼ばれる監督の処女作は、粗削りながら、やはりどこかずば抜けて光るモノがある。

漢江の川岸に棲む血の繋がりもないホームレスたち。その中でも、´ワニ’と呼ばれる一人の粗暴な青年は、橋から投身自殺を図った人間から金目の物をかっさらうという貪欲さ。ある晩、一人の若い女性が橋から身を投げる。まだ息がある彼女を年老いたホームレスのアドバイスで助け、その夜は彼らのテントで休ませる事にするが、性欲を抑えきれないワニは乱暴に彼女を犯す。まだ幼い少年は、彼女にワニが寝ている間に逃げるように囁くが、彼女は一度は逃げたものの、どうしたわけか、やはり彼らの元に戻ってきて一緒に生活をするようになる・・

強姦されてもワニの元に戻る女性の真意や彼女の過去、ワニが終盤になって似顔絵警官の奸計に嵌り、一度は逮捕された筈なのに如何にして一時出所できたのか?ホームレス仲間を狙う犯人の正体は??・・といった部分の描き方が若干端折られし過ぎている感もあるけれど、月明かりに照らされた漢江の川面、そして、何と言っても、所々に挟まれる、おそらくワニという男が常日頃頭の中で描いているであろう理想の日常生活である水中描写が幻想的で美しい。そして、ラストシーンでは、そのジグソーパズルの最後の一片が見事にはまり、美しい作品が完成する。

監督自身が影響を受けて映画の世界に入ったというフランス映画「ポンヌフの恋人」へのオマージュも作品全体から存分に感じられる。

ワニを演じたチョ・ジェヒョンという俳優が、とにかく野性的な魅力に溢れていてキャラクターにピッタリ。まるで、初期の黒澤明監督に登場した頃の三船敏郎のような凄い存在感。巨匠監督の影にはやはり名優ありき・・といったところか。確かにチョ・ジェヒョンのプロフィールを見ていると後のキム・ギドク監督作品にも多数出演しているようで、そのうち何本か自分も見ている筈だが何故か全く何役で出演していたのか記憶に蘇らない。おそらく、それほど、このエネルギッシュなワニ役が、いかに適役であったという証であろうな。

てか、ジャケ写でのネタばらし、やめて~。
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