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鰐 ワニのシネマノのレビュー・感想・評価

鰐 ワニ(1996年製作の映画)
4.3
これがデビュー作なんて、本当にキム・ギドク恐るべし。

橋の下に住み、身投げした人間から金品を奪って生活、悪知恵と暴力、性欲に塗れたゲス男の生き地獄と純愛。

強姦、ゆすり、子供を使った募金詐欺、違法賭博、衝動に任せた暴力。
倫理を脱し過ぎていることと、ワニ男=ヨンペと周囲の人達に巻き起こる出来事が、ギドク監督にしては性急で、もはやファンタジーの領域に突入している。
そのため、続く名作たちに比べて娯楽度はかなり高い。

同居人のジジイ、孤児、ワニ男に身投げして助けられたヒロインと、最小限で最大限の効果を発揮するコミュニティ、関係性の変化は絶妙。
クズでありながら、孤独で弱く、コミュニティを稼ぎで支える不器用なワニ男の思想と行動がキラリと光る。

演出も、ワニ男が這ってでもすがる生の青、身投げ女の死と怒りの赤、孤児の純粋無垢な白と、差し込まれる色使いが美しい。
表では泥水に見える川の中の碧、その中でのみ自由になるワニ男、たびたび挿入されるこのカットとラストの画が、映画を支える。

後はジジイが絡む自動販売機の使い方。
他に類を見ない自販機演出にはゾクゾクしたし、底辺を描かせたら超一級のギドク節が炸裂。

傑作である『悪い男』、『受取人不明』、『嘆きのピエタ』の原点、それらを超える程の殺傷力を持ったエンタメ作品。
にしてもチョ・ジェヒョンはクソ野郎がよく似合う。
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