河

マンマ・ローマの河のレビュー・感想・評価

マンマ・ローマ(1962年製作の映画)
4.0
おそらく戦争孤児であり娼婦として生きていくしかなかった母親が、自分の息子を自分とは違う階級へ抜け出させようとする。そのために、娼婦の仲間と協力して息子に上流階級向けのレストランの仕事を得させて、息子を自分のような女性から離そうとする。
『アッカトーネ』と同じく、生活階級が運命、天職として生まれた時から決まっているような描かれ方になっていて、息子には母親の介入がなければ盗みや悪い仲間達と自然と同化していくような社会構造的な力学が働いている。母親の介入によって一度息子は仕事を得て上の階級、安定した生活に移る。ただ、逃げられない運命のような存在として母親の元夫がおり、その元夫によって息子はその生活から母親や元夫と同じような生活に戻される。
アメリカ映画でよく貧困層の地域から川越に見えるマンハッタンの夜景がこことは違う場所の象徴として出てくるけど、母親にとってマンションから見える景色が同じようなもの、息子にいてほしい場所の象徴のようなものになっている。そして、母親の介入の帰結としてラストでは息子はそこに精神病患者であり犯罪者として強制的に収容される。いて欲しい場所に息子をやれた一方で、そこから息子は動けず母親も息子に届かないっていうかなり皮肉的で悲痛な終わり方になっている。カメラが母親に同情的だからこそ見ていてかなり心が痛い映画だった。
『アッカトーネ』が社会の力学、それによって規定された個人の運命から逃げつつけた結果死によって解放される映画だったのに対して、この映画は社会の力学に逆らって無理やり個人の運命を変えようとした結果その社会の外部に閉じ込められる映画になっている。ローマを舞台にしたネオレアリズモ的なこの二つの映画はそういう意味で対になってると感じた。
反復される娼婦達の集まっている場所のシーン、背景に光しか映らないロケーション、1人語りに対して聞き手が交代していくミュージカルのような演出もあり、かなり非現実的で好きだった。
河