YYamada

シッコのYYamadaのレビュー・感想・評価

シッコ(2007年製作の映画)
3.7
【ドキュメンタリーのススメ】
シッコ SiCKO (2007)

◆ドキュメンタリーの種類
製作者の視点でテーマを掘り下げる
「遂行型」
◆描かれるトピックス
アメリカが抱える医療保険制度の闇

〈本作の粗筋〉
・アメリカは国民健康保険制度がない唯一の先進国であり、民間の医療保険に入れない人がおよそ5,000万人近くいるといわれている。
・そんな中、利益をあげているのは、保険金の支払を拒む医療保険会社や製薬会社と、それらの企業から献金を受ける政治家たち。事実上崩壊してしまっているアメリカの医療制度を他の国々と比較し、アメリカが抱える医療保険制度の闇を暴いていく。

〈見処〉
①テロより怖い、医療問題。M.ムーア、
 再びアメリカの闇を斬り込む
・『シッコ SiCKO』は、2007年に製作されたドキュメンタリー。タイトルは「狂人・変人」を意味するスラングと「病気にかかる」という意味の単語「Sick」と掛けたダブル・ミーニングとなっている。
・本作は『ボウリング・フォー・コロンバイン』『華氏911』のマイケル・ムーア監督が、アメリカの医療制度の問題をウェブサイトで募り、実際に寄せられた話をもとにシュールコメディー調で展開される。
・2007年のカンヌ国際映画祭で、特別招待上映された本作であるが、マイケル・ムーアはブッシュ政権の妨害行為を恐れ、フィルムを没収されないように、カナダに隠したと言及している。
・米国では『華氏911』に続くドキュメンタリー史上第2位の大ヒットを記録。キューバでは「医療制度の描写が事実と異なる」為にカストロ政権により上映が禁止されたと報じられたが、後に訂正され、キューバの映画館でも一般公開されている。

②本作で語られるエピソード
・仕事中に誤って指を2本切断も、手術費用を捻出出来ず、指1本の結合を諦めざるを得なかった人。
・国民皆保険は「社会主義的な危険思想」
・マイケル・ムーアの名前を出し、支払拒否されていた保険金が一転支給。
・カナダで無料医療を受けるため、偽装結婚するアメリカ人
・ヒラリー・クリントン候補を潰す、米国医療制度の闇。
・保険金支払拒否で儲ける米国医療。患者を健康にすると収入が増える英国医療。
・国民を恐れ、福祉に厚い仏国。国家を恐れ、薄い福祉を許容する米国。
・アルカイダ収監者と同じ水準の医療措置を求めて、9.11ボランティア救助員、アメリカ基地にアポなし突撃。
・仮想敵国キューバ、米国人を無償で治療。

③結び…本作の見処は?
「私」ではなく「私たち」と考えたい。金言の多い傑作バラエティー。
◎:「人を殺す金があるなら、助ける金もあるはず」…。利益史上主義のため、先進国で唯一、国民健康保険制度がないアメリカの価値観の歪みを痛感させられる作品。本作公開から15年経過、「オバマケア」も失敗したアメリカは以前夜明けを迎えていない。
○:「医療措置を求め、キューバ東南部のグァンタナモ米軍海基地に海上アポなし訪問」…「進め!電波少年」の上を行く危険きわまりない突撃取材は痛快で、重いテーマながら、バラエティのようなノリで描かれる。
▲: 本作で登場するキューバ・カナダ・イギリス・フランスでは医療費が全て無料のように描かれ、マイケル・ムーアの主張に沿った強引な演出は本作でも見られる。「国民健康保険制度」は税金で運用され、国民が間接負担されることをほとんど説明しておらず、一定の猜疑心を持って鑑賞したほうが良い。
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