半兵衛

自由な女神たちの半兵衛のレビュー・感想・評価

自由な女神たち(1987年製作の映画)
4.0
どんな内容なのかずっと気になっていた作品であるけれど、予想以上の人情喜劇の傑作だったのに驚き。

おバカで純朴な松坂慶子と口が達者で嘘ばかりついている桃井かおりによるお互いの個性を生かした息のあった掛け合いと文字通り体を張った演技の素晴らしさに笑わされ、泣かされる。喧嘩してもすぐ仲直りし、一緒に風呂はいったり一緒にデュエットする単純だけど本当に親密な関係性も◎。あと二人がショーで披露する歌の数々が歌手の歌とは違う、役者でしか出せない味わいのある歌になっていて聞き惚れてしまう。

そしてこの映画に大きく貢献しているのがかつて捨てた幼い娘のことが忘れられない痴ほう症の老人・加藤治子、ボケた老人らしい動作の中に少女のような振る舞いがあってキュートさがにじみ出る絶妙な演技が素晴らしく(さすが元少女歌劇団出身)、彼女のベストアクトではないだろうか。終盤での老人の娘に会いたいという願望を叶えるため嘘の子供を演じることになった松坂慶子との、お互いに言ってることはすれ違っているのに何故か想いが通じあって擬似親子の関係性になる場面は二人の名演と虚構を最大限に生かした久世光彦監督の演出により嘘こそが真実という映画ならではの名シーンに。

ビートたけしと由利徹をミックスしたようなお笑い要因のイッセー尾形や、松坂が整形する前の顔を演じる片桐はいり、左とん平、阿藤快、笠智衆といった脇の演技も見事。

あと桃井かおりが住む家賃三千五百円のボロ家のギミックが最高で、これだけでも見る価値あり。

安易な結末になることなく、独立した女性が虚構の世界で生きていく決意をするたくましいエンディングが自分の生き方を求めさ迷う女性のバディムービーを見事に締める。

ちなみに桃井かおりが全編でアドリブなのか脚本通りなのか判断に苦しむ発言を連発しており(「私処女じゃないから」には爆笑した)、そこに彼女がかつて大いに触発されたショーケンの影を感じた。
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