Tラモーン

親切なクムジャさんのTラモーンのレビュー・感想・評価

親切なクムジャさん(2005年製作の映画)
4.2
邦画の名作サスペンスに続くは韓国産名作サスペンスを。


幼児誘拐・殺人の罪で13年の服役を終えて出所したイ・クムジャ(イ・ヨンエ)。模範囚として囚人仲間たちに対していつも優しく分け隔てなく接してきた彼女の異名は「親切なクムジャさん」。しかし、それは自身に濡れ衣を着せた男への復讐のための仲間集めが目的だったのだ。


なんて素敵な映画だろう。
いや、ストーリー自体は暗いし凄惨な復讐劇ではあるんだけど、誤解を恐れず言えばクムジャさんの贖罪が美し過ぎて心を掴まれてしまった。

まずは冒頭から画面のキッチュなまでの極彩的な色使いに圧倒され、異常なテンポの良さと、時折挟まれる妙な笑いにより、居心地は良く無いのになんだか目の離せない感じになっていく。
「あー、親切なってこういうことか」とクムジャさんが刑務所内でどんな振る舞いをして、それぞれの囚人仲間とどんなエピソードがあって、とご丁寧な過去時系列と次第に明かされていくクムジャさんの計画。

"作戦は13年前に始まったのよ"
"あと1人殺すつもりよ"

親切だったころの彼女と、現在の時系列の彼女をくっきりと線引きするかのような真っ赤なアイシャドーが極彩色の画面の中でも一際存在感を放つ。

そして彼女を復讐に駆り立てる真犯人ペク(チェ・ミンシク)と養子に出されていた娘ジェニー(クォン・イェオン)の存在。

ペクの異常性を際立たせる食卓のシーンはさすがパク・チャヌクという見事な不快感。チェ・ミンシクはこういうキモいオヤジやらせても天下一品だよなぁ。

天真爛漫なジェニーの存在感は映画の中でのコメディリーフとしてだけでなく、事情を知ってなおクムジャさんを愛する無垢さはクムジャさんにとって赦しであり、罪悪感であるという、複雑な心情の表現としての役割も非常に大きかったと感じた。

"罪人にはもったいないくらい"

仲間の協力により割とあっさりと個人的な復讐を遂げるかと思いきや、自分以外にもペクに復讐する理由を持つ人たちが存在することを知ってしまったクムジャさん。
なんだかんだこのあたりもやっぱり親切なんだな…と思ってしまう。自分のように過去に苦しむ見ず知らずの人たちにも復讐のチャンスを。
凄惨な私刑ゆえに躊躇し、揉め、団結し、苦悩する遺族たちの姿が皆生々しくてよかった。

黒いコートの襟で口元を覆ったイ・ヨンエがこの劇中で1番可愛かったかもしれん。
最期とばかりに2発の銃弾を撃ち込み、時折笑うように見えたクムジャさんの泣き顔の長回しアップは名場面。果たされた復讐が必ずしも心を晴らすわけではないことを物語る。


冒頭では真っ白な雪原の中、真っ黒な服に身を包んだクムジャさんが、まさに犬死にと言わんばかりに黒い犬のような宿敵を射殺し無慈悲な復讐を遂げるイメージが描かれるが、実際の結末はどうだっただろうか。
降り積もる真っ白な雪に覆われ、これからのクムジャさんが過去に囚われず、苛まれず、問われることがありませんように。

"もっと白く"
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