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マイ・バック・ページ(2011年製作の映画)
4.3
70年安保周辺の学生運動のうねりに乗り遅れた二人が引き起こした悲劇とその後を、おもに駆け出しのジャーナリスト沢田の視点から描いた作品です。これを当時の世相一般や学生運動そのものをとらえた作品と勘違いすると間違ってしまうかと思います。

結局のところ本来の学生運動とはあまり関係のないところで二人は安田講堂にこだわっていたのでしょう。沢田は東大法学部出身者としてのプライドをつぶされたくなかった。梅山はとにかく、世間を騒がせて世の中から認められたかった。そんなところが彼らの行動の本質的な原動力の様に思えました。そして、沢田の持つ職業的な特権と梅山の口のうまさが、悲劇を現実のものとしてしまいます。

日本人の判官びいきが災いしてか、この時代の物語は、最盛期ではなく、遅れて来た跳ね返り的な部分で関わって来た人たちのそれがメディアで取り上げられる事が多いということに今更のように気付きました。この映画は最初の潜入取材の場面を細やかに写す事により、その辺の区別を見極めてきちっと写しているところに好感が持てました。

これよりさらに後の世代に属する私などにとっては、最盛期の60年代末は個人的な記憶の範囲外なので、記憶に残っているのは70年以降の事です。そこからの記憶だと、そもそもが学生運動を肯定的にとらえる事自体が難しい。だからなんとなくこの世代の人たちの言動全てをうさんくさく感じていたのだという事を、主人公には批判的な視点でこの時代をとらえているこの映画で初めて理解したというのはとても皮肉な事でした。誠実に運動に参加して、それを糧にして社会に入っていく事が出来た人も中にはちゃんといたのかもしれないと初めて少し腑に落ちた気がします。評価が高い若松監督『実録・連合赤軍 あさま山荘への道』も含め、同世代の人たちが作った映画より、描写や視点は遥かに的確で分かり易く、映画としての説得力には優れていると思います。

もう一つ感心したのが、沢田がつとめている新聞社の雰囲気や、東京のまちと京都の大学などのリアリティーのレベルの高さです。とくに東京の部分は、町並みが変わってしまった中で、よくがんばったと思います。天下の◯◯新聞の雑誌出版部門が『ばかのハコ舟』の健康飲料売りと同じ位うさんくさい商売に見えてしまったのには笑ってしまいましたが、でも、大会社の売り上げが低い部門の社員の意識って、実際ああいう感じなんでしょうね。あと、当時のファッションの再現も大金かけた『ノルウェーの森』なんかより遥かに趣味が良く、小物に至るまで違和感が無かったことに驚かされました。

それにしても、山下監督、山師的な松山さんの演出は楽しそうにしていたように思いましたが、妻夫木さんの役には終始距離をおいている感じがしました。それでも、エリート意識とか、世間慣れしていない部分を薄めて描いているようで物足りなくも感じましたが、この辺が観客が見ていて引っかかりを感じない限界なのかも知れません。久しぶりにはまり役の松山さんだけでなく、役柄設定からして微妙だった妻夫木さんもたいへんな好演でした。

一場面しか出てこなかった三浦友和さんの存在感、表紙モデル役の忽那汐里さんの好演、前園役の山内圭哉さんの話し方も印象的でした。

地味な映画ですが、製作者の気骨が伝わってくる作品でした。見てよかったと思います。

(乗り遅れていたふたりの過ち 2011/6/5記)
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