上海十月

マイ・バック・ページの上海十月のレビュー・感想・評価

マイ・バック・ページ(2011年製作の映画)
4.0
山下敦弘監督は、「松ケ根乱射事件」を観ている。この作品は、オフビート感覚で笑いを誘おうとしているのが見え見えで気に入らなかった。が、この作品、その間の長さがかえって話のシビアさと絶妙の化学反応で笑える。むしろこういった映画の方が合っていると。原作が川本三郎で実話が元ネタで、しかも原作者本人が関わって朝日新聞社を辞めることになるとは・・・ジャーナリストになってスクープが欲しい駆け出しの記者と自称思想犯のシンパシーと挫折を描く。なんの罪もない人間が殺されることがスクープ欲しさで麻痺している記者。当時のマスコミの煽り方が尋常でないことがわかる。自称思想犯は、大した考えもなく自分がテロリストであることに酔い、適当な毎日を送る。この役を松山ケンイチは、いやらしく演じている。若松作品に出てくる人物のようだ「処女ゲバゲバ」「現代好色伝テロルの季節」。人間が優しいとジャーナリストになれないことが、自称思想犯に使われていく羽目になる。当時ニューシネマ全盛で「ファイブ・イージー・ピーセス」「真夜中のカウボーイ」がイイと語る若者や自称思想犯とオールナイトで「洲崎パラダイス赤信号」観ている心優しいジャーナリストとの対比が面白い。またラストで「十九歳の地図」の試写会が出てくるが、自称思想犯と通じる心の底があるかもしれないと感じとらせ映画通にも面白い映画だった。明らかに同世代の内容ではないのだが、このアプローチは、大変成功している。
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