塔の上のカバンツェル

スターリングラードの塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

スターリングラード(2000年製作の映画)
3.8
"スターリングラード"の映画、と世の映画ファンが聞いて想像するのが大体3作品あると思うんですけど、

「スターリングラード」(1993年🇩🇪)
「スターリングラード」(2001年本作)
「スターリングラード」(2013年🇷🇺)

※後は、1972年のソ連製作もある

1993年と2013年の作品が、独ロシアでそれぞれ独ソ戦の当事者が作った映画なわけですが、2001年の本作品は、ソ連人もドイツ人も全編英語という西欧資本で作られた、3作品の中では最も外野の国が作った映画なわけで。

そういう意味では、独ソ戦をまずは知る入門映画として、初心者にも安心してオススメできます。

そもそも原題は、『Enemy at the Gates』なので、邦題のみ戦場となった"スターリングラード"を付けているだけでもある。

他2作品の独ロシア映画が、スターリングラードという街での壮絶な戦いをメインで描くのに対して、本作はスナイパー映画としての側面が大きい映画なので。

ジュード・ロウ演じる主人公と、エド・ハリス演じる燻銀の渋い独軍スナイパーとの、スナイパー合戦と、レイチェルワイズとのロマンスにウェイトを大きく掛けているので、ヒロイズムや戦場の悲惨さもバランスよく2時間に収められています。

これは冷戦後の西側諸国が、安心して独ソ戦というものを描けるようになったがゆえの、商業映画としての塩梅だと思います。

2013年のロシア製作の方は、やはり最も多くの犠牲を出した当事者として、当時の兵士たちの勇気を忘れないという愛国的精神が当然のように強い作品でした。
VFXや戦場アクションは流石近年ロシア映画といったところで、大迫力な画が連発するので、画で満足できるタイプの映画だったなと。


そもそも、このスターリングラードの戦いは第二次世界大戦を含めた、近現代史上最大の市街地戦であり、日本のWW2での犠牲者300万人の2/3に匹敵する200万人が、この一都市の攻防戦で死んでいるという、想像を絶する戦いだったわけで。

この悲惨さを余す事なく描いたのが、1993年🇩🇪製作の「スターリングラード」だったと思います。

独ソ戦は、2000万人以上を殺し合った大殺戮だったわけですが、大物量で殴り合う独ソ両軍の戦闘、極寒のロシアの冬、欠乏する食料、捕虜虐待、レイプ、市民虐殺など、独ソ戦の地獄をパッケージしたドイツ視点の映画が彼の作品でした。

この映画は、侵略者としてのドイツの猛省から製作されている映画でもあり、また包囲され、そして極寒の中で死んでいった独第6軍の兵士たちの、「全てに見捨てられて、俺たちは死んでいった‼︎」と、絶叫する、本当に絶望に満ちた映画でした。

2013年の🇷🇺作品が英雄への記念碑的なラストであり、本作のラストは希望に満ちた大衆映画としてのラインだったかなと思うので、3者3様、描く立場のバリエーションが其々違って興味深い。

なので、本作で、独ソ戦入門をくぐり抜けた人は1993年のドイツ製「スターリングラード」を観て欲しいーなーと。

(その後に独ソ戦に興味があれば、ソ連の「炎628」とか観れば良いと思います。アレは本当にオススメはできないけど)



じゃぁ、本作の美点はというと、エンターテイメント映画として、キチッと纏まってるのが本作なので、
ジュード・ロウの目力とスナイパー力を思う存分味わえると思います。

また、特質すべきは、NKVDの督戦隊に銃口を向けられつつ突撃する冒頭の戦闘シーン(ypaaa!がちょっと弱い気もする)や、
フルシチョフの激似っぷり、
エド・ハリスの刻み込まれた皺など、推せるポイントはいくつもある。

フルシチョフを迎える場面で、整列する海軍歩兵のカッコよさも光ってた。
海軍歩兵が出るだけで、加点ですよそりゃ。


西側陣営の人間が、この史上最大の戦いの映像化にちゃんと挑んだという点で、意義深いな、とは思います次第。