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アイガー北壁のodyssのレビュー・感想・評価

アイガー北壁(2008年製作の映画)
3.5
【夾雑物がやや目立つ】

ナチ政権下のドイツで実際にあった話をもとにした映画だそうです。

山登りが単に個人の趣味や執念だけの問題ではなく、国家の威信をかけた競争であったことがこの映画の背景になっています。物語が悲劇として終わるのも、そうした競争の必然的な結果であると言えるのかも知れません。

ただそれだけに、山登りの映画として見ると、悪くはないのですが、わずかに物足りない感じもします。私は2、3年前に公開された『運命を分けたザイル』に大きな感銘を受けたのですが、それはあの映画があくまで山登りという一点にこだわり、その詳細を描ききり、その過程の中で或る行為が許されるかどうかという倫理性に至っているからです。つまりまず山登り自体を詳細に描き、しかる後に倫理性が出てくるわけで、その逆ではない。それはあの映画(これまた実話に基づきます)が扱った事件がそういう性質のものだったからだと言えばそれまでなのですが、山登り(に限りませんが)を描くならこういうふうに、山登りの実態に即して、つまり即物的に話を進めるべきなので、余計な夾雑物を入れるべきではないということがよく分かったのでした。

それに対して、この『アイガー北壁』には夾雑物が目立ちます。当時の風潮や国家の威信の問題は、ここでの登山と関わっているからいいとしましょう。ジャーナリズムとの関係も、そうした国家維新と関係しているからまあいい。しかしさらに恋愛模様まで入るとなると、余計なものが多すぎる気がしてきます。もっとも恋愛模様も事実だったのかも知れませんが、それを入れるくらいならむしろ山登りの技術的な側面や、政治と山登りの関係をもっと突き詰めて追求してほしかった。或いは、国家威信やジャーナリズムの問題にしても、掘り下げ方が不足しているのではないか。色々なものを盛り込んだがために、かえって虻蜂取らずになってしまったということでしょう。傑作になり損ねた惜しい映画だと思います。
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