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心中エレジーのtsukikoのネタバレレビュー・内容・結末

心中エレジー(2005年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます


大好きな映画「心中エレジー」を久々に鑑賞。

いろんなことを飲み込みながら生きている京子と、彼女を毎日電車で見かけていた万代。彼は京子が勤める不動産屋に赴きアパートを借り、そこで平日の夕方2時間だけ会ってほしいと懇願。2人はその日から逢瀬を繰り返すようになる。しかし、次第に死へ向かうようになり心中するが失敗。一方、万代の妻は2人の関係に気づいていて…。

とにかく画が美しいことで知られる亀井亨作品。中でもセンチメンタルな人物たちの心情をそのまま反映したような画は、見ていると鬱々としてきて知らずのうちに物語に取り込まれていく。

京子は夫にふんわりとした不満があるものの口にはせず、流されるまま生きている。そんな中、通過する電車の音に紛れさすがように鉄パイプでコンクリート壁を殴っていた際にホームレスを撲殺し、夫が密かに処理。万代も京子に惹かれて心中未遂を繰り返した挙句に京子の夫に刺され、さらに京子に樹海の中に置き去りにされる。万代の妻もまた、京子に嫌がらせをし続けている。

一見普通に見えても京子は人を惑わすセイレーンかサキュバスのような存在で、彼女がいるために周りの人畜無害な人間たちが静かな狂気に支配されていく。

とはいえ、激しいタッチでは描かれず始終静かに淡々と物語は進行していく。

今の生活から逃れたいけど、そこまでではないしそんな気力もない、でも協力者がいるなら死ぬのなんていいかもと思っていて、そんなノリがまた現代的で、流され続ける人間の選択肢としてとてもリアルだ。

京子と万代は次第に惹かれ合うようになり何度も体を交わす。アパートで、ビニールハウスで。互いの体を貪り合うようなその行為は普段の生気のない彼らとはあまりに違って切ない。

ラストシーンは本当に爽快である。万代とはまた違う形で死なずとも解放された京子の姿は清々しい。

日常にうんざりしている人はぜひ。
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