シズヲ

ウォーキング・トールのシズヲのレビュー・感想・評価

ウォーキング・トール(1973年製作の映画)
3.3
故郷に舞い戻った元プロレスラーが町の腐敗を正すべく保安官になる。いわゆる暴力で悪を制するアンチヒーロー系ムービーで、実在の人物であるビュフォード・パッサーをモチーフにしている(後年のリメイク版ではロック様が演じている)。有力者たちに牛耳られている保守的な田舎町を舞台にしているだけあって、牧歌的な絵面と閉鎖的な社会性の何とも言えぬ息苦しいコントラストが印象的。暴力的な正義を貫く主人公の造形からは『ダーティハリー』などが登場した時代の風潮を感じるけど、革新に揺れ動く60~70年代に現れたヒーロー像の根底にあるのが“旧来的な自警主義”というある種の先祖返り的観念なのが面白い。

ただ、主人公の暴力性(というか独善性)が発露することにいまいち説得力が無いので正直あんまり乗り切れない。確かにしょっぱなから理不尽な洗礼を叩き込まれるし、プロレスラー時代に体制の腐敗を見てきたことも触れられるけど、そこから大した葛藤もなく偏執的な正義感へと振り切れるのは些か納得しづらい。冒頭から人間味あふれる姿を見せているので尚更そう思うし、キャラハン刑事のように初めから超然としている訳でもない。演出面も貧弱で、いかにも低予算っぽい絵面なのにそれをカバーするような工夫が殆ど見受けられない。展開に関しても行き当たりばったりで間延びしているだけにしょっぱさは否めない。これで2時間も引っ張るのは少々厳しい。

しかし垢抜けない演出は却ってバイオレンスの無骨さを際立たせていて、突発的に訪れる血生臭い描写には中々のインパクトがある。決して華やかとは言い難いジョー・ドン・ベイカーが棍棒で武装している粗野なビジュアルも良い。自己の正義を横暴なレベルで貫く主人公のキャラクターと鈍重で泥臭いアクションの噛み合わせも生々しい暴力の質感に貢献している。それだけにラストバトルはいっそ派手に振り切れてほしかった。

“大衆の怒りの化身”という造形は当時のアンチヒーローとして類型的ではあるものの、本作の主人公が持つ無自覚な先鋭性は特に過激。ダイナマイトのシーンなんかはもはや狂気的。というか作中の正義感が肯定的に描かれる割に実際の描写が妙に極端なせいで、何とも言えぬ危なっかしさが終始拭えない。しかしアメリカが抱える“潜在的な暴力性”の極北として本作の価値観を見るとそれはそれで興味深い。
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