アニマル泉

荒野の女たちのアニマル泉のレビュー・感想・評価

荒野の女たち(1965年製作の映画)
5.0
フォードの遺作。フォードはラディカルだ、そして自由だ。モンゴル奥地のキリスト教伝導所という閉鎖的な集団に、外部から女医カートライト(アン・バンクラフト)がやって来る、さらには外部の馬賊が襲撃して占拠されてしまう、そしてキリスト教、人種差別、男と女、あらゆる価値観が崩れてしまうというアナーキーな物語だ。アン・バンクラフトは登場はカウボーイハットで馬に乗り、ヘビースモーカーでウィスキーを愛する。まるで男だ。そして最後は馬賊の首長ドゥンガ・カーン(マイク・マズルキー)の愛人となる。暗い縦廊下の奥から燭台を持ってやって来るアン・バンクラフトが馬賊の衣装と化粧になっている衝撃のワンカット。もはや国籍も無化されてしまう。フォードはラディカルだ。 
フォード作品では女たちは家を守り、男たちの帰還を待っている役目だった。しかし本作は女たちが外へ出て行く。女たちは怯えながら常に窓から外を見ている。そしてアン・バンクラフトを犠牲にして、最後は住居を捨てて外へ脱出するのだ。フォードの最後の作品で今までの世界を壊してしまう、フォードの自由さに心から感動した。残されたアン・バンクラフトは「あばよ、クソったれ」と言って茶碗を投げ捨てる。フォード作品の文字通りのラストカットが「投げる」ことで終わる衝撃に呆然とする。
「投げる」主題はカーンが首長の座を懸けて戦う場面でガウンをアン・バンクラフトに投げ捨てて、その瞬間にアン・バンクラフトが地面に投げ捨てるのが面白い。
本作はワンセットだ。キリスト教伝導所のワンセットだけで描いている。入口の大扉、建物の縦廊下がポイントだ。
フォードはしばしば人物が地面や床に座り込む。本作もアン・バンクラフトと対立する所長(マーガレット・レイトン)が地面に座り込んで話す場面が印象的だ。
「火」の主題は松明、コレラ感染対策で衣類などを焼却する巨大な火に展開されている。
音楽はエルマー・バーンスタイン。いつものフォードは音楽が少ないのに比べて音楽がうるさい。エマ(スー・リオン)が子供たちと歌いながら歩いていく場面にバーンスタインの不吉な劇伴奏が被るのはあきらかに逆効果だ。フォードの歌はきちんと聞かせるべきだ。
MGM カラーシネスコ。
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