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さくら、さくら -サムライ化学者 高峰譲吉の生涯-のウシュアイアのレビュー・感想・評価

2.9
[あらすじ]
時は明治時代。代々御典医として加賀藩に仕えてきた家の跡取として生まれた高峰譲吉は、家業の医者の道を捨てて、化学研究の道に進むべく、イギリスへ留学する。

帰国後、人造肥料の実用化研究のため訪れたアメリカでキャロラインと恋に落ちるが、結局、研究のため日本へ帰国。彼女を忘れられなかった譲吉は再び渡米し、様々な困難を乗り越えてキャロラインと結婚する。結婚後、譲吉はキャロラインとの間に2人の子どもに恵まれるが、次々と新しい発見をし、研究に没頭する譲吉をよそに、キャロラインは慣れない日本での暮らしに苦労をする。


明治時代に活躍した化学者・高峰譲吉の伝記映画。

彼は純粋な化学者というよりも、分野としては生化学で、どちらかと言うと実用的な研究を行っていたので、今でいう、バイオテクノロジー分野の研究者の日本におけるパイオニア。

アドレナリンや三共胃腸薬の主成分タカジアスターゼの発見が有名であるが、イマイチ日本では野口英世などに比べると知名度が低い。しかし、明治時代は、池田菊苗(うま味の発見)、鈴木梅太郎(ビタミンBの発見)などノーベル賞クラスの研究を行っていた生化学者が結構いる。

西洋科学が入ったばかりの時代とはいえ、江戸時代にすでに化学は入ってきており、何より独自に発達した高度な醸造・発酵技術は西洋の技術を上回っていたこともあり、この時代の日本には、後進国でありながら優秀な人材が多かったのである。

とにかくこの映画で、今までよく知らなかった高峰譲吉という稀代化学者を知ることができた。

まず、見ていて思ったのが、明治時代なのに、ものすごく国際感覚のある学者であった。

商売上手な義母の入れ知恵があってのこととなっているが、どのようにしたら自分の研究成果を生かせるか、ということをよく考え、日本における特許制度の創設にも関わり、またジアスターゼの契約の際にも、日本の国際競争力を鑑みて、日本での販売権利を保護するような契約をするなど、ものすごい先見性だと思う。

日本よりもアメリカで有名となっているのは、やはりジアスターゼやアドレナリンの研究、実用化がアメリカで行われたからのようだ。それ以外にも、ワシントンの桜並木も高峰博士の計らいというのもあるだろう。(これがタイトルの由来)そして、当時ではほとんどなかった国際結婚をやってのけるのもすごい。

高峰博士の生涯はドラマティックで興味深く、映画の題材としては申し分なかったが、お金をかけなさすぎなために興ざめなシーンも。出てくる場面がどうしても明治時代とは思えないくらい、現代のものが入り込んでしまっている。役者も加藤雅也が熱演するも、なにせ演出の粗さに、仕上がりが再現VTRや博物館向けビデオっぽくなってしまっている。

映画なのに、すごくもったいない。

とはいえ、一見の価値あり。東京で上映しているのは、銀座シネパトスというすごく昭和な映画館のみ。これも残念。

(2011年4月1日)
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