アニマル泉

のんき大将のアニマル泉のレビュー・感想・評価

のんき大将(1949年製作の映画)
4.8
ブニュエルのメキシコ時代の第2作で、その後のブニュエルらしさを発見出来る作品である。トップカットからブニュエルが偏愛する「足」だ。複数の「足」が重なり、他人の足を自分の足と間違えて掻いている、それが留置所に酔っ払って拘束された主人公のラミロ(フェルナンド・ソレル)の登場場面となる。ブニュエルは「高さ」の作家だ。本作では大邸宅の大階段、アパートの階段での上下の動きが頻出する。特筆されるのはラミロのアパート屋上からの飛び降り自殺の騒動だ。パブロ(ルーベン・ロホ)が止めようとするがラミロは飛び降りる、しかし間近のベランダに着地、パブロが助けようとするのに抗ってラミロは建築用足場に飛び乗るが宙吊りに揺れて恐怖におののく。自らこだわると明言するブニュエルの「高さ」の主題が鮮やかに刻まれた場面である。
本作はスクリューボール・コメディの変種だ。スクリューボール・コメディの本来の定義は、結婚間近の男が変わり者の女性の破天荒な行動で大騒動に巻き込まれるロマンチック・コメディである。本作は娘ビルヒニア(ロサリオ・グラナドス)の婚約パーティーを大虎のラミロがぶち壊し、ラストに再びビルヒニアの結婚式にまさかの異議申し立てをしてビルヒニアとパブロを結ばせるコメディだ。父と娘という関係だがスクリューボール・コメディの構造になっている。パブロは女性ストッキングや石鹸などをスピーカーで営業しながら車で移動販売している。このスピーカーから拡声される声が要所で効果をあげる。まずパブロがビルヒニアにプロポーズする場面では、スイッチを切り忘れた為に二人のやり取りが拡声されてしまい、アパートの窓から覗くラミロたちに筒抜けになる。この場面の人物配置は「高さ」の関係を活かしている。そして結婚式の場面ではパブロが乗り込んで拡声器で挙式を妨害するのだ。阿吽の呼吸でラミロが結婚に異議申し立てをして、花嫁姿のビルヒニアはパブロの車を追いかける唖然となる展開になる。さらに車内の二人のプロポーズのやり取りとキスの音が、またもやスイッチを切り忘れてスピーカーから拡声されてしまう。この結婚式阻止は同時にカトリック教会批判にもなっている。
ラミロ役のフェルナンド・ソレルがいい。婚約相手のアルフレド(ルイス、アルコリサ)とヒゲが濃い母(マリア・ルイーザ・セラーノ)が面白い。
本作のテーマである、大富豪と庶民の「階級差」や、皆んなで嘘をつくという「規則」は本作以降ブニュエルが繰り返すテーマになる。
白黒スタンダード。
アニマル泉

アニマル泉