成瀬巳喜男の現存する最古の映画だが、不況のさなか奮闘するセールスマンの苦労を描いた他愛のない短編喜劇のはずなのに過剰なまでに映像テクニックを使った結果肝心の映画の内容をぼやけさせるという事態に。何とか僅かなチャンスのなかで自分の中の爪痕を残そうとする若き成瀬のもがきは解るけれど、喜劇なのに映像技術が前に出すぎて笑えなくなっているのは致命的。
前半の喜劇らしいやりとりから、後半子供をめぐるシリアスすぎる展開のギャップにも唖然。
ただ成瀬がこうした失敗を経て、30年代半ばから技術の使いすぎを控えてさりげなくテクニックを使う方向性に転じていきそれを極めることで一流の映画監督になっていったことを思うと感慨深くなる。