むっしゅたいやき

モンドのむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

モンド(1996年製作の映画)
4.5
トニー・ガトリフ監督作品。
原作は後にノーベル文学賞を受賞するル・クレジオの短編集『海を見たことがなかった少年』より。
これも素晴らしい。
純真さと切なさ、そして何より温かみを感じさせる作品です。

物語はいつ何処から来たのかを誰も知らない、ひとりぼっちの少年・モンドの日々の暮らしを軸に進む、シンプルですが深みと哀しみの有るストーリー。
主題は人々が忘れてしまったもの、と言ったところですが、飽くまで抑えされた筆致で描かれており、観る者へ委ねられた構造です。

多くを環境音に拠る作品ですが、劇伴には尺八も取り入れられており、舞台となる南仏ニースの街並み風景を観ながらにして、どこか見覚えのある様な、故郷の様な気分にさえさせられます。

そしてその没入感を補強するワンカットワンカットが実に素晴らしい。
澄明で温かみがあり伸びやかで、被写体である少年の体温や陽を透かす草、冷たい雨滴の質感まで感じ取れそうな程です。
特に昼寝するモンドに彫像が語りかけるシークエンスでは、緩やかな風の温もりまで感得されました。

世間への露出も少なく決して派手な作品では無いものの、一抹の切なさと伴に少年の無邪気な笑い声が耳に残る、そんな名品でした。
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