シズヲ

ブラザー・フロム・アナザー・プラネットのシズヲのレビュー・感想・評価

4.6
黒人そっくりの宇宙人がニューヨークのハーレムへと不時着。口は利けないが不思議な超能力を持つ彼は街へと溶け込み、いつしか周囲から“ブラザー”と呼ばれるようになっていく。80年代アメリカのインディペンデント映画の代表的作品。サン・ローランは『スペース・イズ・ザ・プレイス』で外宇宙に旅立ってしまったが、このブラザーは寧ろ外宇宙から遥々やってきた。宇宙へと希望を見出す“アフロ・フューチャリズム”から一巡するかのように、空からやってきたマイノリティは“異邦人”のままアメリカへと回帰していく。本作はSFであり、移民の映画であり、そして街の映画なのだ。街のにおいを感じ取れる映画はやはり良い。

多民族社会、社会的弱者のコミュニティ、それらの理想的な姿をある意味で体現する“マイノリティとしての宇宙人”。彼は余所者であり、異邦人であり、アウトサイダーでもある。しかしハーレムという町の人々はそんな彼も何となしに受け入れていく。ここは“移民の社会”であり、彼もまた“ブラザー”なのだ。アメリカという人種の坩堝における一種の“理想像”を、オフビートなテンポで描き切っていくセンス。作中で描写される“言語”の渾沌ぶりがアメリカの多層性を映し出し、それ故に“言葉を持たない主人公”がニュートラルな存在と化すのも面白い。何処か素朴な“ブラザー”の振る舞いには愛嬌があり、見てて憎めないものがある。

ハーレムの街並みや人々を生々しく捉えた撮影がとても良い。ドキュメンタリーのような素朴さに加え、ざらついた映像の質感も相俟って、インディペンデントらしい魅力に満ちている。異邦人である“ブラザー”は雑多で賑やかな社会の中を飄々と彷徨い続け、気が付けば街の人々から受け入れられていく。“アウトサイダー”と“コミュニティ”の接触、両者の融和、そして帰属。風刺的な要素を盛り込みつつも深刻にはなりすぎず、気の抜けたユーモアや呑気なテンポと共に話が進行していくのがとても好き。

酒場の気怠げなムードなど、場面から滲み出る空気感が実に良い。作中で描かれ続ける“主人公と街の関係性”をずっと眺めていたくなるような心地良さに溢れている。大真面目であるが故に何処となく滑稽なメン・イン・ブラック二人組を始め、設定や場面の愉快なアイデアの数々が楽しい。酒場での乱闘シーン、至って真面目なのにBGMも相俟ってシュールなユーモアがあってほんとすき。皆が立ち向かってくれるのが友情フォーエヴァーすぎる。

街に受け入れられ、同時に街の闇を垣間見た“ブラザー”が、終盤には麻薬から街を守るために奔走するのが味わい深い(それまでのテンポから少々外れる展開ではあるとはいえ)。そして最後は“ブラザー”を受け入れた街の人々が彼に応えて、窮地に追い込まれた彼を助けてくれる。この清々しさ、そして愛おしさよ。異邦人を有りのままに受容し、その帰属先として存在するコミュニティーの姿。異邦人=宇宙人の存在を通じて、“理想郷”としてのアメリカの社会像が此処に描かれている。そのうえでこの映画における魅力の本質は、NYという街を異化しながら見つめていく“ブラザー”の素朴な放浪の中にこそあると思う。本作は街を描いたグラフィティであり、ストレンジャーによる街の散策なのだ。
シズヲ

シズヲ