ukigumo09

逢いたくてのukigumo09のレビュー・感想・評価

逢いたくて(2002年製作の映画)
3.1
2002年のトニー・マーシャル監督作品。『偽れる装い(1944)』や『肉体の悪魔(1947)』のヒロインであるミシュリーヌ・プレールを母に持つ彼女は1970年代に女優としてキャリアをスタートさせる。1973年のジャック・ドゥミ監督『モン・パリ』では母との競演を果たしている。この作品の主演はカトリーヌ・ドヌーヴということで『逢いたくて』への影響が見て取れる。
トニー・マーシャルが監督へ進出してからの代表作は『エステサロン/ヴィーナス・ビューティ(1999)』だろう。ナタリー・バイ演じるエステティシャンを中心に仲間たちや彼女らの恋の行方が描かれるこの作品でセザール賞の作品賞、監督賞、脚本賞を獲得している。セザール賞の監督賞を受賞した女性は現時点ではトニー・マーシャルだけである。そんな彼女がオファーを断られたら企画自体を諦めようとしていたほど本作『逢いたくて』には欠かせない存在なのがカトリーヌ・ドヌーヴだ。氷の女王と言われるようにクールなイメージのドヌーヴの新しい一面を引き出している。この作品の発想の源になっているのは1957年のアメリカ映画レオ・マッケリー監督の『めぐり逢い』なのだが、劇中のドヌーヴは暇さえあれば『めぐり逢い』を観に行くほど大好きな映画という設定になっている。

パリの出版社で働くファネット(カトリーヌ・ドヌーヴ)は映画館で『めぐり逢い』を観ては毎回涙している。映画内のデボラ・カーとケイリー・グラントの再会のシーンに昔の恋人との思い出を重ね合わせているようだ。ある時旧友のベルナール(ベルナール・ル=コック)からフィリップの消息を聞く。フィリップという人物は過去にファネットと関係のあった男性で、今も忘れられないようだ。フィリップの名を聞いてからファネットはフィリップの幻影を追うようになる。そんな彼女のもとに当のフィリップから手紙が届く。文面には、日付と天国に一番近い場所、エンパイアステートビルで会おうとある。ちょうど仕事の出張でニューヨークに行くことになっていたので『めぐり逢い』の2人の約束の場所と同じエンパイアステートビルでの再会を夢見てアメリカへ旅立つのだった。
アメリカでは写真家のマット(ウィリアム・ハート)と出会う。仕事上のパートナーであるはずのマットだがファネットに執拗にアプローチしてくる。フィリップとの約束の晩も強引に食事に誘われレストランで過ごすことになる。ファネットはどうにか抜け出し、フィリップがいるであろうエンパイアステートビルの屋上行きエレベーターの列に並ぶのだった。

この作品はほとんどドヌーヴが映らないことがないほどにドヌーヴを堪能できる映画となっている。『めぐり逢い』のデボラ・カーを見つめる客席のドヌーヴの美しさは際立っている。本作の撮影は2001年ということで9.11の影響があり、本来ロケのシーンをカナダにセットを作って撮るなどばたばたしたようだ。貿易センタービルがなくなってしまったために偶然『めぐり逢い』の合言葉「天国に一番近い場所」が本作でも成立することになるというのは不思議な話である。
ukigumo09

ukigumo09