サマセット7

ライトスタッフのサマセット7のレビュー・感想・評価

ライトスタッフ(1983年製作の映画)
3.8
監督は「SF/ボディスナッチャー」「存在の耐えられない軽さ」のフィリップ・カウフマン。
主演は「ブラックホークダウン」「ジェシージェームズの暗殺」のサム・シェパード。

[あらすじ]
1947年。アメリカ、エドワーズ空軍基地にて、テストパイロットのチャック・イェーガー(サム・シェパード)は、史上初めて、マッハ1を超える音速飛行に成功する。
その後1959年、ソ連による人類初の人工衛星打ち上げに触発されたアメリカは、有人宇宙飛行を目指して、マーキュリー7と呼ばれる7人の宇宙飛行士を選抜しようとする。
集まったのは、イェーガーの背中を追う若きテスト・パイロットたちであった。
長く苦しい試験が始まる…。

[情報]
原作は、1979年発表のトム・ウルフ著の同名のドキュメンタリー小説。

実在のマーキュリー計画と、音速に挑んだテストパイロットの実話を題材としている。
宇宙飛行士の伝記映画としては、草分け的な作品となる。

マーキュリー7として知られる7人の宇宙飛行士を、今ではよく知られた俳優たちが若手時代に演じている。
宇宙飛行士映画の常連、エド・ハリス!アポロ13!ゼロ・グラビティ!
トレマーズのフレッド・ウォード!
デイアフタートゥモーローのデニス・クェイド!
羊たちの沈黙(クロフォード!)のスコット・グレン!
エイリアン2のアンドロイド、ランス・ヘンリクセン!!

他にも、ザ・フライのジェフ・ゴールドブラムやエイリアンのヴェロニカ・カートライトなど、どこかで見た顔が多く見られる。

今作は、マーキュリー計画に挑むパイロットたちとその家族のドラマと並行して、伝説的テストパイロット、チャック・イェーガーのマシンの限界に挑戦する姿を追う、という構成になっている。
その結果、単なる宇宙飛行士伝記物に終わらない、テーマ性を帯びた作品となっている。
イェーガーを演じるサム・シェパードは、劇作家としても知られ、パリ・テキサスの脚本を書いていたりする。
なお、今作には実在のイェーガー本人がバーテンダー役で出演している。

イェーガーとマーキュリー7の関係性は、現在上映中の「トップガン/マーヴェリック」でオマージュされている。
冒頭の速度の限界を超えるシーンなどはエド・ハリスの出演もあり、明らかなオマージュである。

今作は、現在批評家からも一般層からも、宇宙飛行士もののクラシックとして高く評価されている。
アカデミー賞4部門(作曲、編集、音響効果、録音)受賞。
他方、予算2700万ドルを投じて興収2200万ドル弱に終わり、興行的には失敗している。
3時間13分の長尺やスターウォーズep6などヒット作との競合が悪く働いたか。

[見どころ]
各パイロットたちのそれぞれのドラマ!
パイロットを翻弄するマスメディアと国家権力!
対するパイロットたちの反骨精神!!
最初期の宇宙飛行の、死と紙一重の緊迫感!
名脇役たちの若き日の姿!!
イェーガーと若きマーキュリー7の対照から浮かび上がるテーマ性とは何か!!??

[感想]
歴史に触れた充実感。
それにしても、3時間超えはさすがに長いか。

今作は、トップガン/マーヴェリックの引用元として色々なところで言及されている。
たしかに、冒頭からそれらしきシーンがありニヤリとできる。

今作で中心として描かれるのは、マーキュリー7のうち、アラン・シェパード、ガス・グリソム、ジョン・グレン、ゴードン・クーパーの4人とその妻たち、そして、伝説的パイロット、チャック・イェーガーとその妻。
この5組の夫婦の喜怒哀楽をゆったりと描く。

元が実話だけあって、味わい深いエピソードが多い。
ジョン・グレンが妻に電話で伝える言葉!!
後にアポロ1号の事故で散る、ガス・グリソムの飛行後の夫婦の会話!!!
アラン・シェパードの度重なる"水"難!!
そして、最高のパイロットを問われるゴードン・クーパーの脳裏に浮かんだのは…!!??
そして、焼け落ちたバーに佇むイェーガーに、妻が言うセリフと、イェーガーの返答!!!
味わい深い!!深すぎる!!!

上手いのは、単なる宇宙飛行士の伝記に終わらせず、パイロットの反骨とフロンティアスピリットを浮かび上がらせる演出だろう。
フィリップ・カウフマン監督の腕というべきか。

マーキュリー計画と並行して、孤高の天才チャック・イェーガーを描く構成が活きている。
宇宙飛行をモルモットの実験と言い捨てた彼の、ガス・グリソムの飛行に対するコメント!
西部劇を思わせる、荒野の馬での疾走!
終盤の、ギリシャ神話を思わせる上昇!!!

今作で、マスメディアや政府は徹頭徹尾、批判的に描かれる。
副大統領の意向を述べ立てる上司に対して、パイロットたちが見せる反骨!!

今作では、音楽、音響がかなり大きな役割を負う。
何しろ飛行場面の撮影に当時の技術では限界があり(とはいえ、どうやって撮ったか分からないくらいよく撮れているが)、ドラマの盛り上げは、主に音楽が担っている。
音楽担当のビル・コンティは、ロッキーシリーズを始め数々の映画を名作たらしめてきた作曲家である。
今作でも見事アカデミー賞作曲賞を受賞している。

ボリュームも含め、映画を観た!!!という充実感を味わえる今作だが、後のアポロ13などに比べて、さすがに長く、テンポもゆったり目で、分かりやすいサスペンスやカタルシスには乏しいかもしれない。
この辺りは、マーキュリー計画という題材の限界か。

また、今作はあくまで「白人男のロマン」を追った作品である点に、時代の限界を感じる。
この点は、マーキュリー計画で重要な役割を果たしたアフリカ系女性たちを扱った後世の作品「ドリーム」で補完したい。

ラストシーン。
同僚にして親友、ゴードンの飛行を見つめるガスのセリフ!!!
グッと来る!!!

[テーマ考]
今作のタイトル、ライトスタッフとは、その人独自の正しい資質、との意味。
今作のテーマは、「自らの資質(ライトスタッフ)を最大限に活かして生きることこそ、重要」ということだ。
メディアの狂騒や、政治家の他者の成功の横乗りに対する批判的視線は、このテーマを際立たせる。

イェーガーの生き様。
マーキュリー7のパイロットたちの反骨と挑戦。
支える妻たちの苦悩と受容。
いずれもが、このテーマに沿って理解することができるだろう。

人からどう評価されるか、とか、自分がどう感じるか、は、結果に過ぎない。
問題は、自分を信じて「やるべきこと」に徹すること、だ。
そんな人々の連なりが、人類を前に進めて来たのではないのか。

[まとめ]
最初期の宇宙飛行について、テーマ性豊かに描いた、伝記映画の名作。

「アポロ13」や「トップガン/マーヴェリック」にも出ていた名優エド・ハリスだが、個人的には、マイケル・ベイの「ザ・ロック」の敵役の印象が強い。
作品を引き締める、好きな俳優の1人だ。