一人旅

小さな旅人の一人旅のレビュー・感想・評価

小さな旅人(1992年製作の映画)
3.0
第45回カンヌ国際映画祭審査員グランプリ。
ジャンニ・アメリオ監督作。

母親に売春させられていた少女ロゼッタと弟、そして姉弟を孤児院へ送り届けるためイタリアを南北に旅する憲兵アントニオの姿を描いたロードムービー。

心に深い傷を負った少女と若い憲兵が織りなすロードムービーで、始めは反発し合いながら次第に立場を越えて相互理解がもたらされていくさまを、イタリア各地の風景とともに描いた作品。このテの“知らない者同士”のロードムービーはわんさか存在するため、これと言って特筆すべき点はないのだが、過度に感傷的にならず比較的ドライな人間模様に抑えた作風は好感が持てる。少女が憲兵に心を開くまでの過程がとても自然体で、いつの間にか親し気に話しかけている印象だし、姉弟を疎ましく思っていたアントニオの心境の変化までもが自然体に描かれる。わざとらしさのない、自然体の人間描写。そのため、つくりに無理がないし物語にスッと入り込める。

姉弟と憲兵の内的関係だけでなく、売春をしていた少女に対する偏見と無理解という世間の冷たさ、不寛容を映し出してもいる。少女の過去を理由に孤児院への入所を拒否されたり、見知らぬ人間に根掘り葉掘り質問攻めされた挙句、心ない一言を浴びせられたり。ひとり強がっていた少女が見せる涙が切なく、それを抱きしめて受け入れる憲兵の姿が優しい。また、各地で出会う人々との交流もロードムービーらしいエッセンスのひとつ。旅先で出会ったフランス人旅行者とのプチ観光や、久しぶりに再会した祖母と憲兵が過ごす穏やかなひとときが印象的。

本作は劇的展開こそないが、憲兵との旅を通じて心の傷を癒し、新しい未来へ向かって歩む決意を固めていく姉弟の姿を描いたイタリア製ロードムービーの佳作。ロードムービーにおいてもはや必要不可欠な、真っ青の海と真っ白の砂浜が生み出すコントラスト風景が美しい。
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