大道幸之丞

雨に唄えばの大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

雨に唄えば(1952年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

ハリウッド映画が無声映画からトーキーに切り替わった当時の様子を無声映画の大スタードン・ロックウッド(ジーン・ケリー)とリナ・ラモント(ジーン・ヘイゲン)の視点から描いたコメディ・ミュージカル映画。

『バビロン』がオマージュを捧げた映画という事で学習鑑賞。

発声を伴う演技を求められない無声映画ではスターであっても、地声が外見と合っていなければトーキーでは成功できない。リナ・ラモントは外見と声が合っておらず、そこをカバーするためにアフレコで恋人キャシー・セルダン(デビー・レイノルズ)の声を当てる提案をするロックウッドだったが、女優志願者であるキャシーを裏方役にすることには抵抗があった。

しかしシンプソン社長がキャシーを評価しデビューと宣伝を約束してくれる。ところがこの事実を知ったリナは嫉妬し、キャシーを裏方のままデビューさせないように画策する。しかし舞台挨拶ででしゃばった事でリナは自ら墓穴を掘り、むしろキャシーの観衆へのお披露目の場になってしまう。

——ミュージカル映画なので、筋立てだけだと正味は30分程度の内容だと思う。無声映画の欠点をズバリ口にしてくれたキャシーにロックウッドが感銘し彼女を必要に感じるのは溝口健二の『残菊物語』とよく似たフォーマットだが、ハッピーエンドである点が後味がよい。

本作を伸ばすとすると、ロックウッドの親友コズモ・ブラウン(ドナルド・オコナー)は実は観ているとロックウッドより芸達者であり、無声映画ではロックウッドが大スターだったが、トーキーではコズモがヒットするなどのエピソードにも膨らませそうだ。

この頃映画会社が俳優を抱えているシステムであることがわかる。日本もこれに準じたのだろう。

とにかくタップが見事であり、これを観るためだけでもこの映画の価値はある。

ただし。キャシーとの恋愛に浮かれて雨中でタップを興じたからと言って、雨天もこの場面だけなのに、タイトルを『雨に唄えば』とするのはいささかやりすぎだと思う。