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マイ・マザーの海のレビュー・感想・評価

マイ・マザー(2009年製作の映画)
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肉体が、心の容れ物であったとして、ではなぜ心に容れ物が必要なのか、そのときわたしは、内側で何も感じなくなったときに、外側でそれを感じるため、と書き留めている。わたしはいつも逃げ出したい、自分自身から。わたしはいつもつかまえられたい、自分以外の誰かに。ずっと起きて話をしてたい。ずっと眠って安心してたい。ああ、自分の中に子供を感じなくなったとき、ひとは成長をやめるのかもしれない。 おととい、母と車で一緒に出かけた時、わたしの好きな詩人・中原中也の話になった。母がふと、「そばにあると、少しずつ大切さに気づけなくなるのよね」みたいなことを言って、わたしは「ああ、それ、わたしのことかな」なんて思って黙り込んだ。母は続けた。「でもそれくらいじゃないと、詩は書けないのよ」わたしは泣きそうになって、咄嗟に「そうだね、どこか馬鹿じゃないと、きっと詩人にはなれないよね」って言って、可笑しくもないのに一人で笑った。わたしは詩を書くのが好き、絵を描くのが好き、映画を観るのが好き、海が好き。それはぜんぶママとおなじだった。ママがわたしにおしえてくれて、ママがわたしに、くれたものだった。わたしたちは決して円満で幸せなばかりの母娘じゃなかった。母の話は、誰にも話してないことのほうがたくさんある、もう覚えていられないほどたくさんある。わたしは決して良い娘なんかじゃない。でもママは、わたしを認める。わたしを許し続ける。…今わたしは、これ以上書けるほど、大人になれてない。書いてるだけで、頭の中がいっぱいになって、昼間、泣いてしまった。今日はママの誕生日です。
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