プレコップ

ビートルズ/レット・イット・ビーのプレコップのレビュー・感想・評価

4.0
「終わる」ロックバンドの鎮魂歌

この映画の撮影(とモロッコの円形劇場ライブ)のため朝からトゥイッケナムのスタジオ入りが求められるようになったことで、それまでのルーティーンを崩したビートルズは完全に分裂するまでに至るが、そこは構築し直したピーター・ジャクソンによる「ビートルズ:Get Back」によって、2021年になってその空気感がわかるようになった。トゥイッケナム→アップルスタジオに移った経緯やその明確な雰囲気の違いなど8時間以上に及ぶ膨大なドキュメンタリーが余すことなく伝えてくれる。

そのため、いつのまにかトゥイッケナムからアップルスタジオに移り、いつのまにかビリー・プレストンがレコーディングに参加している本作「レット・イット・ビー」はあまりに説明不足すぎて、現在からすれば「ビートルズ:Get Back」の下位互換であり、当時の困惑した反応もよく伝わるような内容ではある。それでも、「ビートルズ:Get Back」を観て印象に残ったシーンの多くが今作発信であったことは特筆すべきである。「I Me Mine」に合わせてダンスするジョンとヨーコ、ポールの娘を笑わせるリンゴ、ジョンとポールが1本のマイクで向かい合って歌う「Two of Us」などのシーンはドラマチックで素晴らしく、編集の妙が光る。冒頭のピアノに置かれたかじりすぎて形を留めていないリンゴ🍏もこの状況を端的に示すメタファーになっている。

ラストのルーフトップコンサートはカタルシスの塊のようなシーンであり、音楽の受け手には内側の見えない場所であるアップルスタジオで制作してきた楽曲を屋上から放つライブの爆発は、いつ観てもグッとくる。

ということで、「ビートルズ:Get Back」を8時間も観ていられない人へのダイジェスト版としてオススメです。
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