つるみん

楽日のつるみんのレビュー・感想・評価

楽日(2003年製作の映画)
4.0
【誰も我々を覚えてない】

「福和大戯院」という実在する古い映画館の閉館前最後の上映時に繰り広げられる人間模様を描いた一作。

始まりが、絶妙に違う20センチュリーFOXのあのファンファーレで馬鹿にしたように笑ってしまったが、結果この映画、凄く好みであった。正直に言うと本作は好き嫌いがハッキリ分かれるタイプの映画であり、それは内容云々ではなく、作り方である。ほとんど台詞はなく、ただただ沈黙(自然や物体の音)シーンが続き、定点カメラでその様子を映し出す82分間。これをしんどいと思う人は間違いなく居るであろう。ただ僕のようにこれがハマる人も当然居る訳であって、テーマである「閉館する映画館」に対して、行ったこともないのに何処かノスタルジックな感情へと誘い、何でもない描写ですらエモーショナルな気持ちにさせられる。人間観察的な面白さも勿論あるが、台湾のあのちょっと古い建物であったり、看板であったり、それに雨の音が加わったりと、そんな描写が好きな人には堪らない82分間である。

ただ最高な場面はラストに用意してあり、そこでラスト上映されていた『決闘竜門の宿』の主演2人、シー・チュンとミャオ・ティエンが年老いた姿となり上映後たまたま再会するのだ。そして立ち話をしながら、その映画の思い出を懐かしむように2人は笑い合う。ここで涙が出てきた。喜びや悲しみではない、言語化不可能な涙。この映画を言語化するのも何となく間違っているような気もする。

感じてくれ。
つるみん

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