ダイナ

裏窓のダイナのネタバレレビュー・内容・結末

裏窓(1954年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

足を骨折し自宅での療養を余儀なくされる主人公ジェフリーズの大半の時間潰しは窓の外のご近所観察。ある時、対面のアパート室内の窓を眺めていると喧嘩していた夫婦の妻が姿を現さなくなる事に気付いたジェフは夫が妻を殺めたのではないかと想像しその考えを検証していくというヒッチコック得意のサスペンス映画。

自由に動き回れないワンシチュエーション。主人公が視覚的に情報を得るのは窓からの風景のみ。そこから見えるご近所さん達はダンスしてたり日光浴してたり昼寝、花の手入れピアノ演奏等それぞれが日常を謳歌しており、映される範囲は限定的なスペースのみでありながら並行して進行する人間ドラマにリアリティを感じます。どことなくシム系ゲームのモブ観察みたい。窓という枠から様々な情報を拾う点、身体を動かさずテレビやスマホPCの画面、銀幕で映像を普段観る便利な時代に身を置く我々にとって怪我をしていなくてもジェフの状況に親近感を寄せることは難しくないでしょう。目に入る情報の何を拾ってどの疑問と結びつけるか。ヒッチコックの傑作箱庭サスペンス、面白かったです。

蓋を開けると他の住人はほとんど夫婦の事件とは関係は無い訳ですが、その点それはそれで趣深いです。パズルはダミーが入ってた方がウザ…難易度が上がるしそれらがドラマ性を持ち、作中の世界観や現実味を深めるのに一役買っています。ノイズのようでノイズでないモブ住人達の存在に計算された「計算の見えない血の通った日常」が息づいているように映ります。最後はセールスマンに捕捉されギャラリーから注目されと見られる側に回った主人公。ニーチェの深淵じゃないですが、ジェフが逆の立場になるのは面白くてとても好きな仕掛けです。

DVDの特典メイキングがなかなか見応えがあり、特に2階(ジェフがいた部屋)は実際は「地上1階」で1階&中庭はスタジオの地下室だったという裏話は中々の驚き。小さいスタジオで本作を撮るにあたり「地下室を利用すりゃええやん」という発想が面白い!ジェフが眠ったのを確認した後、リサが「探検小説」から「ファッション誌」に持ち替えた真意の一解釈は、両足折れちゃってのハッピーエンドというユニークさな余韻に浸っていた自分にとっては勉強になる視点でした。

花壇に埋まっていたものであったりセールスマンの妻でない女性の存在であったり明かされない点がいくつかあります。ジェフの推理はどこまで的を射ていたのか。そんなジェフの最後の顔は満足した寝顔。逆算してどういう事実が発覚したら彼の満足そうな寝顔にたどり着けるかと考えるのも一興です。
ダイナ

ダイナ