全編を通して主人公の部屋からカメラが外に出ないにもかかわらず、物語規模は見た目以上に大きく感じられる。要因の一つには、四方をアパートに囲まれ中庭を中心とした閉鎖的な空間だが、そこに存在する登場人物たちに見る生活感が実在性を高めている点が挙げられる。バックグラウンドを感じさせない登場人物たちが一人もいない事実が、醸し出される緊迫感とリアリティに寄与しており、車椅子生活を強いられる主人公と同化する体験こそが今作の没入感に直結している。また背徳感を背に覗く隣人の私生活はドキュメントタッチな面白さがあり、それだけで観る者の興味を掻き立てられる。クライマックスでついにレンズ越しに犯人と目が合う瞬間は、ジャンプスケアにも勝る恐怖体験だ。
