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モーリスのaのレビュー・感想・評価

モーリス(1987年製作の映画)
5.0
「君さえいれば何もいらない」

これほどまでにひとを愛しても祝福されないのならば、愛の価値の測り方とは?
それぞれの感情が交差し、画面はたびたび暗転する。セックス、人はそれを愛の行為と呼ぶ。「汚(けが)れる」と、触れ合うことさえ堪える彼らの、身体が愛欲に押し動かされるシーンが苦しいくらいに美しかった。80年代英国の男性らの、出で立ちや仕草に不似合いな、涙や怒号、とろんとした眼差し、そのすべてに魅了された。
同性愛、というテーマに正面からがつんとぶつかる映画、久しぶりに観たら精神にくるなあ。

一見悪者かのような展開を見せるクライヴだけれど、一番良心からの愛を持って行動していたのは彼なのかな。「君のように他の人を想えたらどれだけ幸せか」なんて、余程愛していないと何気なしに発言できないと思うんだ。こんなに愛情に満ち足りた言葉ってあるか。
先に心の内を明かしたのは彼で、冷静にふたりを客観視していたのも彼。モーリスの幸せを願うがゆえに突き放したくせ、どうしても手放したくなくて彼の恋愛に執着してしまう。皮肉なことに、こんなに人を好きになったのも、こんなに恋に苦しめられたのも、彼が初めてで。(きっと当時も、そして今も、こうしてクライヴのように社会に抑圧されて恋を葬るひとが第多数だろうな)

エンドロールで嗚咽が込み上げた。この映画は、最後のクライヴの瞳に尽きる。
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