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バーバーのsunyaのレビュー・感想・評価

バーバー(2001年製作の映画)
4.0
コーエン兄弟による仏教映画。

以下ネタバレ含みます。

常に無口で派手さをきらい、妻の不貞に怒ることもなく、真面目な理髪師として粛々と過ごしてきた主人公が、客の投資話に興味をもってしまうところからこの映画は始まる。

それは小さな欲だったかもしれないが決して満たされない。それどころか、雪だるま式に欲が欲を肥大化させていく。

投資話に騙され、金銭にふりまわされ、殺人を起こし、彼ではなく妻が逮捕され拘留中に自殺、彼以外の子供を身ごもっていたことを知らされ、弁護士費用を払うための床屋の担保は銀行にとられ、親類の娘のピアニストの才能を見誤り、事故で死なせてしまい、そして彼は死刑になる。

前半から「ああこのままずっと悲劇が続くんだろうなあ」と思って観ていたのは、観ている方の人生においても何かしら相通ずるものがあるからだと思う。世の中が不条理に満ち溢れていることは誰でも知っている。

さて、電気イスに処される前に「コンチキショー!なんで俺はこうなったんだ!」となりそうな題材を「これでよかったんだ。何の悔いもない」と言わしめるところがさすがコーエン節。

本作は、イエスの受難にたとえるより釈迦の涅槃にたとえたほうが近い。「全体を見ると安らぎを感じる」という処刑前のセリフは、全てをうけいれた、あるいは全てをあきらめた者への救いである。

「空を観ぜよ」という初期仏典でよく出ることばがあるが、そこにはいなかった男(The Man Who Wasn't There)の達した境地はそうした風光だったのかもしれない。
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