レインウォッチャー

ドラキュラのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

ドラキュラ(1992年製作の映画)
4.0
こwれwwわwww
なんとまぁサービス精神溢るるドラキュラ!

外連味という言葉があるけれど、この映画はほぼ外連味「だけ」でできている。
むせ返るほどゴシック&ダークな瘴気が充満する中、特に開幕から45分ほどまではノンストップ、出し惜しみなしの過剰演技・過剰演出・過剰美術の弾幕にこっちの処理が追いつかず、笑いが止まらない。

十字架から血がドボドボ噴き出したかと思えば、
ドジャーン★ドジャーン★ドジャーン★と景気良い序奏、
真っ赤な空にはでっかい目が浮上、
ゲイリーオールドマンは白塗りに巨大ふぐりヘアで登場、
吸血鬼感を毛ほども隠さないキモ芸キレ芸の乱打で弁護士キアヌを嘲笑、
うんざりキアヌは地下で闇堕ちギャルズと血まみれ王様コースで絶頂、
その頃トムウェイツは虫食ってびしょびしょ。

なんじゃこれ。最高なの?

この間、最小限の説明でどんどん話が進んでいく。登場人物の情緒も乱高下し、もはやダイジェスト感すらあるのだが、分厚めである原作小説(未読)に引っ張られて3時間とかの文芸大作サイズにするより、まぁわかるっしょ?ドラキュラだもん!と言わんばかりの断捨離、それよりもトッピングやデザートをなるべく多く皿に盛るという英断が行われている。(※1)
それでも、コッポラさんいわく「原作に忠実」なのだそうだ。確かにノルマはクリアしてるし、みんなが観たい部分を映像化しているわけで、嘘はついていない。こりゃあ一本とられましたな。

それでいて、ドラキュラを単なるモンスターではなく哀しい愛の化身として描くことにちゃんと成功している。
それを引き立てるヒロイン・ミナ(W・ライダー)は勿論魅力的だけれど、わたしとしてはドラキュラのつまみ食いに遭う女友達ルーシー(S・フロスト)を推しておきたい。魔性に魅入られた彼女が、夜の庭園で真紅のナイトドレスをひらめかせて夢遊するゴッスゴスな様は癖に刺さりまくり。

また、吸血鬼ってのは要するにキリスト教文化における姦淫の罪の具現化でもあるんだね、ということもよくわかる。あるいは説明や教訓の機能を持っているというか、ヘルシング教授(A・ホプキンス)の台詞にあったように、梅毒(性病)との関わりも深いのだろう。(※2)
そもそもドラキュラが吸血鬼となったのは、神への絶望が原因として描かれている。自殺したら救われないとかいう謎ルールに反目した彼は、女性の貞淑が強く求められる性倫理(しかも多分に男都合の)への反逆を通して、キリスト教社会そのものの均衡を脅かそうとしているのだ。つまりドラキュラはフェミニストだった…?(困惑)

総論、世の中にはまだまだ面白い映画があるよなぁ、とか本気で思わされてしまう力作だった。
パパコッポラの映画ってそれこそ『ゴッドファーザー』くらいしか履修できていないのだけれど、他のも観てみたくなったな。

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※1:英国とルーマニアを何度も往復する中で、展開を効率的かつおもしろおかしく進める編集の工夫も随所に見られる。中でも、場面転換時の珍妙で悪ふざけが過ぎるディゾルブ(オーバーラップ)の数々は見どころ。孔雀の模様→トンネルの穴とか、首刎ね→ローストビーフ、とか。

※2:婚前の女性を誘惑し、純潔に牙で穴を開けて血を流させるとか、様々な症状が心身に出て人外化するとか、言われてみればあからさまであるよね。